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私を踏んでください

作者: 雨桐ころも

「じゃあ、足洗ってくる……本当に今回だけだからね」



 洗わなくていいのに、という言葉は、シャワー室に消えていく彼女のぎこちない動きを見て飲み込んだ。ダブルベッドに寝転び、ほんのりピンクを帯びた照明を眺める。


 高校時代のとある雨の日。もったりと湿った空気が教室に充満する中、登校してきた隣の席の女子が、上履きを脱いだ片足を椅子に乗せ、濡れて色の変わった靴下を見せてきた。



「もう、雨の日って最悪だよね」



 そう言って、彼女は脚に纏わり付いた靴下を、するりと脱ぎ捨てる。



「ああもう、靴下の繊維が……」


 

席に座った彼女が、脚を組んで、足裏を天井に向ける。ほんのり汗ばんだ匂いが鼻を掠めた時、俺の心臓はバクバクと音を立てた。初めてみる女子の足裏に、目が釘付けになる。この日からだ、俺の何かが目覚めたのは。


普段は靴下やサンダルによって隠されているその場所が、無防備に顕になる瞬間。その瞬間に俺はとても興奮する。そして、普段は力強く地面を踏んでいるはずなのに、触れると柔らかいそこが、とてつもなく魅力的だ。これを彼女に話したら、苦虫を噛み潰したような顔で「いい趣味だね」と言った。「お互い隠し事はなしね」って言ったのは彼女の方なのに。


 彼女は素足にスリッパでシャワー室から出て来た。俺は起き上がって、彼女に隣に座るよう促した。ベッドに腰掛けた彼女の目は「本当にやるの?」と言っている。やるに決まっているだろう、これが俺の憧れだったのだから! 俺は彼女の小さな

手を取り、目を輝かせながら言った。



「さあ、俺の顔を思いっきり踏んでよ」


「ほんと、開き直ってるところが気持ち悪い……」



 何度もお願いして、何度も断られた。しかし、俺の誕生日である今日、遂に踏んでもらえるのだ。「誕生日のお祝い? 踏んで欲しいかな」と言った時の、彼女の、汚物を見るような顔は、多分一生涯忘れないだろう。まあ、踏んでもらえるならなんでもいいが。



「よろしくお願いします」



 勢いよくベッドに寝転がった俺とは逆に、彼女はベッドの上で立ち上がり、俺を見下ろした。



「舐めたりしたら許さないから」


「承知しております」



 大きく息を吐いた彼女は、横を向いた俺の頬に足を乗せると、じわじわと体重をかけていく。柔らかいベッドに頭が沈んでいく感覚が気持ち良い。それ以上に、彼女の足が俺の顔に乗せられているという事実が最高だった。顔の向きを無理やり変えると、彼女の足が俺の鼻を捻じ曲げた。そっと目を閉じる。ほんのりと熱を帯びた彼女の足からは、石鹸のいい香りがする。彼女が足の親指を曲げると、綺麗に手入れされた爪が、俺の頬に食い込んだ。


 幸せすぎる。今回だけと言わず、これからも踏んでほしい。でも、彼女が嫌がるなら、きっと今回が最初で最後になるだろう。無理強いはしたくない。この一回を存分に堪能しよう。


 しばらくの間、足の指を使って俺の顔を弄んでいた彼女が口を開いた。



「気持ちいいの?」


「最高」


「……ふうん」



 妙に間が空いた返事に違和感を覚え、目を開ける。すると、恍惚とした顔で俺を見下ろす彼女がそこにいた。ぞくり。彼女の瞳を覗いた瞬間、体が熱を帯びていくのを感じる。これが最初で最後……にならないかもしれない。そんな予感に、俺は生唾を飲み込んで、彼女の足を撫でたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ストレートなフェティシズム描写がとてもよかったです。 [気になる点] 最後の1文の「撫でた」は「舐めた」であった方が好みでした。
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