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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: 未

練習も兼ねているので目を覆うようなところもあるかもしれませんが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

人は最後まで匂いを覚えているらしい。

というより忘れる順番として匂いは最後まで覚えている、らしい。


最初に声を忘れ、次に顔を忘れる、最後に匂いを忘れるというのだから僕がまだあなたの匂いを覚えているのは未練などではなく、人間がそういう作りなのだ、と納得する。



嫌煙家の僕らしくない買い物だった、

テーブルの上のそれはあの人がいつも吸っていたもので、あの人がそばに居る時は最も嫌いな臭いだと即答したものでもある。


箱から1本取り出してみる

別に吸ったことがない訳では無いから火もつくし、むせることもない。

だからといって吸うつもりがあった訳でもない。

ただなんとなく目に付いて、なんとなく買ってしまったというそれだけで、他意は無いはずである。


しかし、やはり、買ったものは使わねば勿体ないのではないだろうか、別にあの頃を思い出す訳では無い、その影を見たい訳では無い、勿体ないからで他意は無い、他意はないのだ。

そう言い訳しながらベランダに机と、あの人が残していった灰皿を用意して火を付けた。


久しぶりだったけれどなんの問題もなく、ただ懐かしい匂いが強く脳を揺さぶった。



彼はいつもこの匂いを纏っていた。

食事時に吸いに出るとさすがに怒った。

風邪を引いた日にも強く匂いを纏っていて治す気がないのかと怒ったこともあった。

雨の日も風呂上がりにも匂いがして、染み付くほど吸うなと怒った。

この匂いに関しては怒った記憶がほとんどだった。

彼はどんな声色で僕の機嫌を取っていたかも覚えていない。


しかし僕を抱きしめたあの時もこの匂いはしていた。

キスをした時は本当に臭かった、それでもその時だけは、なんとなく特別な感じがして咎めなかった気がする。

そして、最後に僕を抱きしめたあの時も、この匂いがした。

あの時の彼はいったいどんな顔をしていただろうか、



あの人が姿を見せなくなった数ヶ月後、彼が亡くなったと知らせが来た。

どうして死んだのかもいつ死んだのかも知らされなかった、葬式もあったかどうかも分からない。

ただ亡くなったと、白を大きく余らせた小さなハガキが届いただけだった。

同性の恋人はやはり歓迎されていなかったか、それでも知らせてくれるのだからある程度認められていたのだろうか、




僕にとってこの匂いは彼の匂いで残る記憶の全てだった、

同じ匂いを街中で嗅ぐことはあまり無かった気がする。

僕にとって彼にまつわる記憶(おもいで)は、もうこれしか残っていなかった。


だからだろうか、匂いに包まれる度に彼との日々を思い出して、体が熱くなる、同時に視界が滲んで溢れていく、


やはり、こんなものは嫌いだ、

ふと体から力が抜け、ずるりと体が落ちる

僕はそうして、落ちる灰に気が付かないままベランダに蹲った

ありがちかもしれませんがこういうのが好きです。

感想や評価などを頂けると嬉しいです。

誤字脱字があれば教えていただけると助かります。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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