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「では、学園に入る準備を進めよう。寮生活は選択せず、家から通いなさい。ーーーアリス」

「はい」

 20くらいの侍女が音も立てずに近寄ってきた。その動きにエヴァナは彼女が相当の手練れであると認識した。

 エヴァナの視線に構わず、アリスと呼ばれた侍女はレオへと足を進める。

「お呼びでしょうか、旦那様」

「ああ。学園については準備も含め全てお前に一任する。くわえて、今日からお前はエヴァナの専属侍女として我が家に仕えよ」

「宜しいのですか?」

「私の言うことに文句をつけるのか」

「いえ。承知いたしました」

 アリスは、深く頭を下げると次は、エヴァナの方へ歩みを進めた。

「今日からお嬢様の専属侍女となります。誠心誠意お仕えさせていただきとうございます」

 エヴァナは、顔も見ずに頭を下げながら言ったその言葉に対して眉を顰めた。目線は、ずっとアリスのつむじに向いている。

 5秒ほどたっただろうか。エヴァナはやっと口を開いた。

「ええ。よろしくね」

 ただ一言を口にすると彼女は立ち上がった。

「閣下、本題も終わりましたことですし、そろそろお暇させていただいても?」

 そう言われたレオは、顔に少し影を挿したかと思うと、口を開けた。

「いや、もうすこしここにいなさい。話したいこともあるが、もうすぐ夕暮れだ。ほんのひとときのティータイムを楽しもうではないか」

 エヴァナは、一瞬思案したのち、頷いた。

「わかりました。この頃私も疲れが溜まっているようですし、少し休憩するのも悪くないですね」

 レオは、小さく頷いた。

 手をパンパンと軽く叩くと、部屋の扉が開き侍女と執事たちが入ってくる。

 エヴァナとレオの前にお茶を入れ、お菓子を用意すると、扉の前へさっとさがった。

 その準備のよさに、エヴァナは、初めからこうするつもりだったのだと察した。

 

 ハーブのすっとした香りが鼻につく。

 その香りが体を癒してくれるようだった。

 誘われるように手を伸ばしお茶を啜れば、体がなんだか落ち着いた。まるで庭園の中でお茶を楽しんでいるようだった。

 ああ、このまま世界が止まればいいのに。

 そう、思わされるようだった。


「ときにエヴァナ。お前の婚約者をそろそろ決めねばなるまい。貴族の令嬢が学園内で探すというのはよくある話。エヴァナも貴族の御子息方に良い方はおらぬか探してくると良い」

「はい、わかりました。勉学も励みながら拝見させていただこうと思います」

 そう言ったエヴァナの顔は、なんとも言い表せないようなものであった。

 その表情に気づいたレオは、少し首を傾げたが、大したことではないかとまたエヴァナに向き合った。

「そうしなさい。話したかったことはもう話した。あとは、このゆっくり流れる時間を楽しもうじゃないか」

 そう言ってレオは、窓から外を眺めた。


 空は青く澄み渡り、少しだけ橙色が混じっていて幻想的だった。

 太陽に重なるように鳥が飛んでいて日の終わりを告げるようであった。

 部屋に差す暖かな光が、レオとエヴァナを照らし、その眩しさにレオは、目を細めた。


 そうして小さなお茶会は幕を閉じた。

 夕日に照らされたエヴァナの顔に映し出される不敵な笑みを残して。





ーーー春の月終わり頃

 花々が世界を彩り、鳥の囀りが町中に春の訪れを知らせている。

 太陽の光は、まるで、それを祝福するかのように暖かく街を照らしていた。



西皇国

正式国名 西サイラス・エルメア州統治皇国

首都 エルムス

国立エルムス学園にて


 その校門前である1人の少女が注目を集めていた。


 制服をはためかせ、校舎を見上げる姿は、ただ立っているだけであるのに、気品と優雅さを感じさせた。


 冬が終わったというのに雪のような手が、耳に髪をかけ、綺麗な桜色の唇はふぅと小さくつぶやく。

 その宝石のように澄んだ碧い瞳は、周りにいる人が儚いと思ってしまうほどであった。


 風が吹く。

 花の花びらが蝶々を誘い、空を彩る。

 黄金色の髪に花はさそわれ、柔らかな甘い蜜の香りとともにほおをかすった。


 新しい春が始まる。


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