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民宿

民宿


結婚の話をしてからバレンタインと言うのは前後逆な感じもするが、昨今のバレンタインは義理ばかりで本命はほとんどないようなことを周りからも聞いている。

この時代はまだ勇気を振り絞り好きな相手に告白する行為としては健在だった。

午後5時近くになり3人は初日のスキーを終えると駐車場へと戻ってきた。


「あー楽しかった~」

「ああここまで滑れるようになるとは思わなかったよ」

「やっぱりりゅうちゃんもミクちゃんも運動神経いいみたいだね、うちの姉夫婦とはえらい違いだよ」

「お姉さん夫婦って?」

「ああ一応姉夫婦は病院の医師と薬剤師なんだけど、いまだにボーゲンから卒業できないでいるよ」

「そうなんだ…」


剛士の姉夫婦はすでに30歳近くなのだがスキー歴は5年以上、普通ならベテランスキーヤーの仲間入りしていそうなものだが滑りは今一歩らしい、現在は6歳になる一人息子の方がスキーの腕前が上達していると言う。


「それじゃ宿へ行こう、もう入れると思うから」


民宿はこの時期かなり込み合っている、特に安い宿は必然的に無理やり宿泊客を取っていたりする場合もある、本来一度寄った時に民宿で着替えも済ませられると思ったのだが。

昼の時間帯にも拘わらずまだ部屋が空いていなかった為お断りされたのだ。

確かに到着時間は昼過ぎと伝えてあり、スキー場の2日券を先に受け取るとも告げておいたのだが、それ以上細かい状況までは把握していなかった。

車を駐車場に入れて、荷物を持つと民宿の入口へと入っていく。

そこにはストーブが炊かれており、壁にはいくつものスキー板が立てかけられていた。


「板はそこに置いておくんだ」

「良いのか間違えて持っていかれたりしないか?」

「大丈夫だよ」


まあ俺とミクは借り物の板なので問題はないが、剛士の板は新品、不安はないのかなと思ってしまう。


「心配性だな、竜ちゃんは」


宿屋のおかみと話し部屋へと案内してもらう、今回は3人で一部屋だ。

まあ宿泊費とチケットで1万円にも満たないのだから同室になるのは致し方ない。

本日この民宿には30人以上の学生が泊まっているらしい。

その半分が某大学のスキー部、そう冬のスキー合宿と言うやつだ。

洋子ちゃんももちろん京王大学のスキー部のため今回この宿には8人の部員と泊っている。

靴をストーブの脇に置きスキーを立てかけストックと一緒に置いておく、入り口横が乾燥室のようになっている。

勿論ストーブがそこにあり冷えた体を温めることもできる、ストーブの上には真鍮製のヤカンがかけられていて、シュウシュウと音を出していた。


「部屋に行こうか」剛士

「おお」


はっきり言うとあまり部屋は期待できない、なにせ学生御用達の安い宿なのだ、部屋のドアも簡易な鍵が付いているだけで、中はなんと2段ベッドが壁に2つ添えつけてある。


「お~2段ベッドだ」

「うちもこんな感じだよ」


ミクの家は下に妹と弟がいるから自分の部屋と言うのはもしかしたらまだ無いのかもしれない。

そう考えると2人兄弟の俺はまだ贅沢な方だ、俺も妹も専用の部屋をあてがわれている。


「荷物は下に置いておいて大丈夫だよ」剛士


部屋の広さも6畳までなさそうだ、いったいこの民宿に何人泊っているのだろう。

後で聞いたら30人以上泊っていると言う、もちろん食事は食堂で30人以上がいっぺんに摂ると言う。

その間に次々と学生たちが練習を終えて帰ってきたようだ。


「うへ~つかれた~」

「おい 奥に詰めろ」

「あ~すまん」


帰ってきた学生達はストーブの前で暖を取る、その間にもどんどん学生が入ってきていた。


「洋子さん、お疲れ様」

「お疲れ、この後美智子ちゃんはどうするの?」

「私は洗濯しようかと思います」


なんと長期宿泊者のために洗濯室まであるらしい、もちろんそこは有料とのことだ。


「洋子ちゃん久しぶり」

「剛士君、来てたんだ」

「ああ竜ちゃんたちもいるよ」

「久しぶり」

「久しぶり~」

「ミクちゃんも」

「わー洋子ちゃん顔焼けたね~」

「え~そう?」

「え~とこちらは?」

「ああ、この子は後輩の山田美智子ちゃん、こっちが真鍋剛士君でこっちが北沢竜馬君、そして高峰美紅ちゃん」

「山田美智子ですお世話になってます」

「たいして世話してないわよ~」

「そうでしたっけ、テヘ」

「ここじゃなんだし部屋へ行きましょう」洋子


京王大学スキー部は今回2か所に分かれて合宿を行っているらしい、女子部がここ八方、そして男子部は志賀草津と言う事だ。

彼女らの部屋は女子のみなので俺たちの部屋で話すことになった。


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