恋愛の勝負は2月
恋愛の勝負は2月
年度が替わり俺の限定解除挑戦も6回目に突入していた、すでにバイクは確保しているが。
たまに出してはエンジンをかけ近場の駐車場で一本橋の練習をするぐらい。
それ以外の移動はほぼ自転車による自力移動。
まあお金もなんとかたまりだしたので近いうちに原付を手に入れる予定だ、この頃の原付と言えば自転車に毛の生えたものからようやくスクーターと言うジャンルがお目見えする。
それまでは自動遠心クラッチと言うものがまだ普及していなかったからだ。
「ミク久しぶり」
「久しぶり」
久しぶりと言っても正月ぶりでまだ一〇日しかたっていない、正月前に会ってそこからは初詣に行ったが彼女は仕事柄三が日も出勤だと言う事で、なかなか会える時間がなかった。
その埋め合わせと言う形で駅前のレストランで落ち合うことにしたのだ。
「どう仕事は?」
「もう忙しいなんてものじゃないよ~」
「そうなんだ、頑張ったね」
「ほめて~」
「よしよし」
「りゅうちゃんは何してたのお休み」
「試験と講習だよ」
実は正月休みは3回限定解除へと挑戦していた、冬場と言うのは雪が降る可能性もあり受験者が割と少なかったりする、寒さもバイクにはマイナス要因だ。
そのため2週間の休みの間に3回予約することができた。
だがもちろん3回とも惨敗であり小コースを全部回ることなど出来なかった。
「また落ちたの?」
「そうなんだよ」
「ふ~ん」
「ミクはもう資格あるんだよな」
「あるよ一応秋に取れたんだ」
「そういえば9月はあまり連絡してこなかったな」
「だって試験の練習でそれどころじゃなかったんだもん」
「珍しいなと思ってあまり質問しなかったけど、こっちも資格試験があったからな」
「よかったね2人共に受かってて」
「そうだね」
「ああ、そういえばこないだスキーの話が洋子ちゃんから来てたよ」
「とうとう来たか」
「なになにりゅうちゃん怖がってない?」
「初めてするんだから、怖がると言うより怖いもの見たさかな…」
「そういうミクはどうなんだ?」
「私はそれほど怖くはないかな」
そう言いながらも目は泳いでいる。
2人共にスキーは初めてであり、テレビで見ても別次元の話だと思っていたのだ。
まあ行ってみればたいして怖がる必要などないと分るだろう。
「それで洋子ちゃんはいつ行くって?」
「洋子ちゃんはすでに何回か行ってるみたい」
「そういえばインストラクターだっけ」
この時代大学でスキーと言えば競技スキーはもとよりスキー学校のインストラクターと言うのがあこがれだった。
今でも子連れでスキーをしに行くと、子供たちをスキー教室へ入れて自分たちは自由になって楽しむ家族はいる。
まあ学校に1時間から2時間預けるのにもお金がかかるので、それなりの財力がないと難しいのだが。
そこで基礎から覚えると、先生のかっこよさが際立ってくる、小学校のころイケメンの先生にあこがれるのと同じだ。
そしてインストラクターになりたいと願う、だがインストラクターの資格もそれほど簡単ではないと聞いたことがある。
確か試験があってその試験は特定のスキー場でしか受けられないし講習も同じで、インストラクターになるにはシーズン中はそこに缶詰になるようなことも聞いたことがある。
「洋子ちゃん2月はスキー場にずっといるんだって」
「なんだそれ?じゃあ剛士とはあまり会ってないのか?」
「それは剛士君に聞いてみないと分らないよ、もしかしたら遊びに行ってるかもしれないし」
「じゃあ一応剛士からも話を聞かないとだな」
「一応洋子ちゃんはずっと八方にいるって言ってた、それで2月中ならいつ来ても良いよって」
「何がいいのかわからないけど、いつでも遊びに来いと言う所かな、八方ってどこだ?」
この後地図で調べてみたが八方とは八方尾根の事だろう、長野県白馬八方尾根スキー場。
冬場の積雪量は2メートルを超し雪質もかなり良い、但しこのスキー場はこぶが多く上級者向けだと聞いたことがある。
もちろん冬場には学生が冬合宿に使う宿が多いことでも有名だ。
この時代にはまだ高速道路が諏訪までしか開通していないため、そこからは国道を走らなければいけない。
関東からのスキー客より関西からのスキー客の方が多かったと記憶している。
「どちらにしてもすぐに行ける場所ではなさそうだな」
後日剛士と連絡を取るとすでに何度か彼は洋子ちゃんとスキーに行っていたのが発覚した。
「おはよう」
「おはよう、もう洋子ちゃんとスキーに行ってるんだって?」
「あ うん」
「なかなかやりますね~」
「そういうわけでは無いけどね」
「じゃあどういうわけ?」
詳しく話を聞くとスキーの本格シーズン前にほかのスキー場へも行ってみたいとの事で12月の2週目に谷川岳へ1回その後年末に妙高へ、計2回洋子ちゃんを乗せてスキーへ行ってきたとのこと。
しかも妙高は2泊3日と言う話。まあ内容を聞けばそれほど恋愛の進展はなさそうだと言える。
その理由は家族も一緒だと言う話、剛士の兄夫婦と息子を連れ全部で5人。
妙高高原国際スキー場は新潟県にあり、そこへ行くにはかなりの時間がかかる。
もちろん雪質はパウダースノーに近く、滑り心地は抜群だと言う話。
その時の話から彼は恋愛の進展をそれほど進めずにいたらしい、まあ兄家族と一緒ではなんとなく気が引けるしこの2名は少しまじめすぎるのも原因だろう。
「ああ~そういうシチュエーションね」
「だからりゅうちゃんが思っているようなことは無かったよ」
「キスも?」
そう聞いたとたんに剛士はこ言葉を詰まらせ黙り込んだ。
「ああ良いよ話さなくても分かるから」
ちゃんとしたいことはやっているじゃないか、その反応を見れば2名がゆっくりとではあるが青春を謳歌していると考えて間違いはない、みるみる耳が赤く染まっていくのだから。




