久しぶりのオッフ
久しぶりのオッフ
「お待たせ」
何度となく見ているがミクのボディは相変わらず刺激的だった。
「おまたせ~」
「…」
ミクは堂々としているのに洋子ちゃんは恥ずかしいのかすこし距離を取る。
その顔は温泉に入ったこともありうっすらとピンク色だ。
「これから夕食よね」
「ああ、それじゃあレストランへ行こう」
なんとなくことばが少なめなのはどうしてなのかわからない、まあ剛士は洋子ちゃんが現れてから全くと言っていいほど話には参加してこない。
(おいどうした?)
(ああ、ぶっちゃけた話何を話せばいいのかわからない)
(そうか、わかった、じゃあ今は話のネタを考えておこう)
(頼む)
ホテルの一階廊下を歩いてレストランのあるエリアへと移動する。
名前はもう忘れてしまったがここはフレンチのコースを出してくれる、今回剛士が予約したのはフレンチのコース。
中に入り名前を告げるとすでに4人掛けのテーブルが用意されていた、すでに数人の宿泊客が料理を堪能している。
剛士がさっと椅子を引くので、俺もその後に続く。
そこまでは無口だった剛士だが、その後は俺が危惧していたことなど大きなお世話だったと分るぐらい、マナーに対して饒舌に語りだす。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「りゅうちゃんありがとう」
「ああ いや」
普段やり慣れていないとなんだか恥ずかしい、椅子を引いて先に座ってもらうという行為はこの時代マナーを知らなければ簡単に思いつかなかっただろう。
そういえばスプーンやフォーク、ナイフなどの持ち方も最近ならばみな知っているのだが、昔はほとんどの人が知らないことばかり、昔よく聞いたのが大きめのグラスに入った水が置かれているのを見て、普通に飲み水だと思い口に入れる人がほとんどだったと聞いたことがある。
後であれは指を洗うための水だと知り、高級料理店へ行く前に知って恥をかかずに済みよかったと思ったことがある。
俺はこの時剛士の動作を凝視することにした、そうしないと恥をかくだろうと感じたからだが。
「ねえこれはここに置くのかな?」
「そうテーブルの上に置いてある布はここにかけて前掛けとして使うんだ」
「へ~」
「ナイフは右手だよ、だからフォークが左手になる」
「じゃあ食べるのは全部左手で運ぶの?」
「そうだよ」
「そうなんだ、いつも箸かスプーンしか使わないから」
それを見て洋子ちゃんもフムフムというように習っていく、彼女は少し知っている様子だがそれでも確認できたことでより自分が記憶しているマナーが間違っていないか確かめているようだ。
「みんな硬くなりすぎだよ、まあ口に食べ物が入っている間はおしゃべり禁止だけどね」
「あれだろ音も立てちゃいけないんだよな」
「そう特に食器を鳴らしたり、スープを飲む時にズズッと言うような音を出すのもNGだよ」
「そうなんだ、ラーメン食べる時の真逆だな」
「ああそうかも」
そういえばフレンチレストランなどこの時が初めてだったと記憶している。
東京でフレンチのコースなど食べようものならホテルの宿泊料金と同等の金額が必要になるのだが。
それがすべて含まれているのだからかなりお得だ、もしかしたら洋子ちゃんは数回フレンチやイタリアンは食べに行ったことがありそうだが。
俺とミクはまずそんなお高いお店に行く事は今までなかったと思う。
「おまたせしました」
運ばれてきたのは冷製スープ、最初の難関は音を抑えてすする練習。
「スプーンは右でいいのよね、このスプーンはどの大きさのを使うの?」
目の前には3種類のスプーンが並ぶフォークも2種、大きさがそれぞれ違うのでそれぞれに違う料理に使うのだろう。
俺も何に使うのか全然わからなかったが剛士はそういう機会が多いのだろう、迷うことなく目の前に並んだフォークやスプーンを手に取る。
そしてミクの質問に全て答えてくれるのだから、はじめ話すことが分らないと言っていた彼の心配などどこへやら。
ちゃんと会話しているじゃないか、だがそれはミクとの会話になっているので。
洋子ちゃんはどう感じているのか、斜め横に目を向けると知っているわとでも言いそうな顔で洋子ちゃんは器用にスープ皿から音を立てずにスープを飲んでいる。
俺がその顔を凝視していると。
「何か私の顔についてるかしら?」
「いや洋子ちゃんもフレンチは経験あるのかなと思って」
「一応あるわ、うちの大学の男子は良いとこのおぼっちゃまも多いから誘われるとほぼフレンチかイタリアンだから、でもそんなに誘われたことは無いし私も知らないことはあるのよ」
「そうなんだ」
「いいな~」
「はじめはそう思うけど、そのうち下心が見えてくるから」
「ふ~んそんなものか」
「そうよ」
これは少し痛い会話になってしまった、せっかく剛士に話を振って会話をバトンタッチしようという所で、洋子ちゃんのプライドが見え隠れしてくる。
このままだとかなり静かな食事会に逆戻りだ。
「じゃあそれほど誘われていないんだね」
「違うわほとんど断っているのよ、だってほとんどが親のお金で払うんだもの、できれば自分で働いておごってくれなきゃね」
「ああ確かに、洋子ちゃんはそこに男としての気概を求めるのかな」
「私だってアルバイトしているのよ」
「それは初めて聞いたぞ」
「私立の大学なのよお金もかなりかかるわ、なのに親に全て任せて自分は勉強だけしていればいいなんて、私には考えられないわよ」
「だから極力割り勘にするんだけどね」
「今は何のアルバイトしているの?」
「今は家庭教師ね、週に三日英語と国語を見てあげているわ」
「へ~さすが我がクラスの秀才」
「まあそうしないと買いたいものも買えないし」
「洋子ちゃん趣味は?」ミク
「今はスキーね」
「え スキーできるの?」
「できるわよ一応毎年冬はインストラクターの資格を取りに行く事にしているから」
この時代リゾート開発が盛んで、山と言えばスキー場がいくつもオープンしスキーヤーにとっては天国となりつつあった。
実はスキーはバイクに似ていたりする、特にカーブを切るところなど体重移動には似たような動きが多い。
まあだからと言ってバイク乗りがスキーヤーになるかは別な話だが。
「へ~そうなんだ、俺も何回か行ったけど滑れるようになるとまた行きたくなるんだよね」剛士」
「今度みんなでスキーに行かない?」洋子
1980年代ウィンタースポーツと言えばスキーが主流になりつつあった、1970年代ならばスキーよりスケートと言う選択肢の方がメジャーだったのだが、マイカーの普及と高速道路の普及が重なり、関東から上信越へのルートが高速道路でカバーされて行けば、近場のスキー場まで3時間もあれば行ける。
土日になれば屋根にはキャリアが装着されスキー板を積んだ車の列がなん十キロと連なる光景が毎週のようにニュースを賑わせたのを今でも覚えている。
時はバブルの全盛期仕事をするのはただ食べていくだけではなく、余暇を趣味に使うために働くという新しい選択肢が増え、それはスポーツにレジャーにと使われるようになる。
「いいね竜ちゃんも行くだろ?」
「おお、でもその前にちゃんと働かないとだよな」
「それはもちろん」
この時代冬はスキー夏はバイクと言う若者は結構いたと記憶している、青春を仕事一辺倒から趣味にシフトしていくのにさほど時間はかからなかった。
流行りの映画も歌でさえもそれを表現していた、だがそれにはそれ相応のお金も必要なのは当然のことで。
仕事と趣味の両立はなかなかハードだったと記憶している。
夏にスキーの話とはなかなか気の早いことではあるが、洋子ちゃんは夏よりも冬に重点を置いているようだ。
しかも剛士もそこには乗り気になっている、もしかしたらこの2名の共通点はそこにあるのかもしれない。