純情
純情
当然のことながら残された剛士と洋子の二人から俺たちの姿は見えている、少なくとも洋子は剛士と2人で残されてしまい、なかなか話し出せずにいた。
だが剛士も全く話さない訳にはいかない、女子との会話しかも旅行でというシチュエーションは今までに経験がない。
だが目の前で2つのシルエットが重なり合う所を見せつけられて、思う所がないわけではなくただ今の自分にはまだ早いと思うだけ。
「よ 洋子ちゃんは2人と長いの?」
「え うん高校からの付き合いかな…」
「そうなんだ」
「剛士君は?」
「竜ちゃんとは専門入ってからだよ、まだ1年半かな」
「そうなんだ」
……
「え~と、剛士君の家ってお医者さんなのよね」
「ああ、一応総合病院の運営している、兄と姉が後を継ぐから俺は割と自由かな」
「そうなんだ」
「でも色々言われたりしない?」
「言われたよなんで俺も医療系に行かないのかって」
「そうよね、でも剛士君にはほかの道があったのね」
「おれ、こんな外見だからもし医者になっても、子供が怖がるでしょ」
「え~そうかな~」
「そういう細かいところで自信がないんだよ」
「そうなんだ、私は普段頭が良さそうに見えてるけど、普通の生活では知らないことが多くて、話を振られると困ったりするわ」
「ふ~ん」
「洋子ちゃんって竜ちゃんのこと…」
「わかっちゃう?そう昔は彼のことが好きだった、でも親友が先に取っちゃったし、私こんな感じだから言えないじゃない」
「だから今は好きな人いないわよ」
「そう」
「剛士君は?」
「昔も今もいないよ」
「そうなんだ」
奥手な二人もほかの人がいなくなれば結果的に話さなければいけなくなり、どちらからともなく相手に話を振って何とか会話を続けようとする、まあ異性と話すことがなくても日本語は通じるのだから何とかなるでしょう。
そんな感じで数分が経ち、遠くの方まで歩いて行ったバカップルが戻ってくると、すでに洋子も剛士も仲良くなっていた。
「もう戻ってきたんだ」
「来ない方が良かったか?」
「いやそうでもないが」
「そうかじゃあもう少し歩くか?」
そう言って立ち去ろうとすると、ミクが手を引いて他のビーチベッドに座るので。
俺もそれに合わせて2人で腰掛けようとする。
「なんで?」
「えへへ」
俺が腰掛けるとミクはその上に座ってきた。
「アツアツねあなたたち」
「かれこれ4年も経つからな」
「もうそんなになる?」
「そんなになるんだよ」
「うらやましいとは言わないけど、計画は分かったわ」
「計画?」
「私と剛士君をくっつける計画」
「そうなの?」
ミクは聞いてないとばかりに顔を俺に向けてくるが、すでにわかっているはず、確かにそういう計画だとは言っていない。
洋子と剛士はうまく行くはずだと思っているだけだ、彼女も特に嫌がっているわけでは無い。
「まあいいわ、じゃあ私たちも付き合っちゃいましょう」
「え?こんな面白くもない俺とでいいのか?」
「私の場合面白いかで付き合うわけじゃないし、少し歩いてみればわかるわ、行きましょ」
そういうと洋子は剛士の手を取り歩き出す、多分剛士は女性の手を握るのも初めてなのではないだろうか。
そして水辺まで行くと剛士の肩によりかかる。
(形だけ合わせて、なんかやられた感がしてむかつくのよね)
(わかった、確かに思い通りに動くのはしゃくだな)
純情な二人が顔を赤くしながらも果敢にチャレンジしていく。
確かにここまで行くようにお膳立てしていたのだが、俺もミクもあまり進展はせず終わるものだとばかり思っていたのだ。
「あまり行き過ぎても後が怖いな」
「りゅうちゃん大丈夫だよ洋子ちゃんああ見えてちゃんとわきまえているから、多分今はプライドで動いてるだけだよ」
「そんなのよくわかるな」
「だって目の前で見せつけられて、こんなこと出来ないでしょって言われたら、するでしょうもう子供じゃないし」
「ミクからそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ」
「え~りゅうちゃん、また私のこと子ども扱いしてる」
「そんなことないよ、もうHしたし」
「あ~想像してる~でもこの旅行では無しだよ」
「なんで?」
「高志君の時とは違うから、あの二人はもっとプラトニックを楽しんでほしい、だって私たちも3年たってやっとなんだから」
「ああそういう事か、確かに」
そう自分たちも高校時代から3年はキスまでしかしていなかった、目の前の二人にもその期間を楽しんでほしいと思う。
「まあ洋子ちゃんは大丈夫だよ」
「そうだな、じゃあおれ達はホテルのレストランにでも行こうか?」
「うんおいしそうなパフェ見つけたよ」
「そういう所見つけるの早いよなお前」
「えへへ~」
まあ遠目から見てもあの二人にはゆっくりと時間が流れているのが分かる。
俺もミクにゆっくり付き合おうと言った手前、同じことを言われれば言い返す言葉もないし。




