伊豆半島
伊豆半島
夏の講習を受け数日は職業試験が数件、そしてまた講習と続く。
カラーコーディネーター、インテリアコーディネーター、マンション管理士、土地家屋調査士、さらに危険物取扱者や宅建主任者、他にも建築デザイナーとなるためには必要な資格がたくさんある。
このころはまだITなどというものが無い時代、すべては紙を使う業務がほとんど。
いくつかの試験や講習を受けようやくお盆に突入するとようやく、少しは暇になってくる。
「りゅうちゃんこないだの資格試験どうだった?」
剛士が声をかけてきた、彼も同じ資格試験を受験していた。
「難しいな、ギリギリかな~」
「講習だけでとれるのは片っ端から受けたけどね」
「だよな、防火管理はまだ楽だけど宅建は面倒だな」
二日前後の講習を受けただけでもらえる資格もこの頃はいくつかあり、それらは多くの学生が受けに来ていた。
俺も剛士も夏の暑さにはげんなりしながら夏を乗り切ったが、それでもまだ大事な資格試験が残っていた。
それは2級建築士、デザインが専攻だがデザインだけの資格では就職は難しい、ならば一番就職率が高いのは一級建築士なのだが、こちらは国の認める資格でかなりの難易度。
だが2級建築士ならば都道府県の認める資格なので若干難易度が低くなる。
どちらもそう簡単に取れる資格ではないので、さらに勉強をしなければいけないのだが。
それまでにあといくつ資格を取れるか。
「ああそうだ8月20から22日まで車借りられることになった」
「おお、あの4WDだよな」
剛士の家にはランドクルーザーという4WDがある彼の親はそのほかにもBENZを所有しており、俺の家とはえらい違いだが。
「でもあの車でかいよな、運転できんのか?」
「それは大丈夫だ、もう何回も乗っているし俺は安全運転だからな」
「なら大丈夫だな」
もしも借りられなければうちの車を借り出すしかないのだが、それはしなくて済みそうだ。
「宿泊はどこにするんだ?」
「東伊豆を考えているよ、親の伝手で安く泊まれそうなんだ」
剛士の伝手で宿泊施設、まあホテルなのだが、何とかそこに泊まれる予定が決まったらしい。
二泊三日で一人1万7千円、そこに交通費が少々、4人で割ればそれほど高くはない金額になる。
宿泊予定なのは伊豆の下田だが、どうやら少しお高いホテルの予約が取れたという話。
まあ予算以内で泊まれれば万々歳、夏の終わり近くとなりメインシーズンからは少し値引きが利いている。
学生2度目の夏はすぐにやってきた、お盆は各種講習で埋まり特に消防防災関係の資格や事務的な資格が多かった。そしてようやくお盆の三週目。
「やっと休みだ~」
「そうだな、ようやく本当の夏休みだ」
「ところで高志は大丈夫そうか?」
「ん?そっちの方が詳しいんじゃないか?」
このころになると俺より剛士の方が頻繁に高志と連絡しており、俺のところに高志から連絡が入るのは週に1度もなかった。
「いや数日前に休みが取れなくなりそうだっていう連絡がきたんだが」
「マジか?」
「ああ」
「事故とかじゃないよな」
「多分大学のことかもしくは家のことじゃないか」
「それはあり得る」
その後俺は高志の家に連絡をしてみた。
プルルル
「はい当間です」
「こんばんは北沢ですが、高志君いますか」
「いますよ、ちょっと待っててね」
電話に出たのは高志の姉である当間みどり、すでに婚約が決まっていて大手企業に勤めるサラリーマンと結婚する予定だ。
「はいおれだけど」
「北沢だけど、お前休みは大丈夫か?」
「…わり~いけなくなりそうだ」
「なんだどうした」
「大学の単位が足りなくなりそうだ」
「え~じゃあどうすんだよ」
「3人で行ってくれ」
「マジかよ」
工業短期大学、この頃は工業機械や建築系の会社に勤めたり、工事現場の指揮を執る資格などを取るために通う大学ではあるが、その他にもいろんな勉強をしなければならない。
数年後この大学も4年生になるのだが、この頃はまだ短期大学だった。
高志は2年へと進むことができたが、7月の試験で既定の点数を得られず、補修と再試験を受けなければならなくなったとのこと。
その試験が8月の3週目にもろかぶっているという。
それを聞いて俺は一人分の宿泊費は3人で割らないといけなくなると考えた。
「それじゃ一人分どうすんだ?」
「すまん」
「まあしょうがない俺が出すか…」
「ほんとわり~な」
「仕方ないだろ、将来と一時のお休みを天秤にかけるわけにはいかないし」
「半分は出すよ」
「そうしてくれればありがたいが、この話はすぐに剛士にも相談しないといけない、後でまた連絡するよ」
「ああ、ごめんな」
「いいって、じゃあまた」
ここで俺はあることを思いついた、ミクの友人を一人連れて行こうかと。
高校時代いつもミクと仲の良い友人が2名いた、そのうちの一人は先に書いた通り小父さんと結婚したがもう一人いたはず。
そちらは確か良い大学に進学したと聞いていた、まあミクに聞いてみないことにはわからないが。
ジリリリリ
「はい高峰工務店」
「こんばんは北沢です」
「ああミクねちょっとまってて」
電話にはミクの母が応対してくれた。
「は~い、竜ちゃんどうしたの?」
「実は高志が夏休み取れなくなったらしい」
「え~そうなの?じゃあ3人で行くの?」
「それで相談だが洋子ちゃん誘えないか?」
ミクの親友の一人、幸田洋子やや細身ではあるがこちらもキレイ目の女の子だったはず。
ただし、すでに旅行の計画は来週に迫っているので、ダメもとで誘う形になるのだが。
「え~どうかな~卒業して以来あまり連絡してないんだけど」
「そうなんだ」
「うん、受験勉強が大変であまり遊べなくなったから」
「ああ確かにそうだったよな」
「でも連絡してみるよ」
「頼む」
もし一人埋まれば少しは穴埋めができるだろう、だが俺がこの時考えていたのは別なことだ。
幸田洋子はどちらかというと才女に近いが、彼女はそれでも気さくな子だった気がする。
そして真鍋との相性が良いような気がしたのだ。
ミクからの電話を待つこと30分、長いようだが女の子の話が30分待ちで済んだのは、もしかして断られたとみるべきか。
ジリリリ
「はい北沢です」
「りゅうちゃん?」
「ああおれだけど、どうだった」
「明日会うことになった、それからじゃないとわからないって」
「確かに電話だけですぐ行けるかわかんないよな」
「それで明日の夜3人で会わない?」
「わかったそれじゃ何時にする」
「洋子ちゃんは7時なら大丈夫だって」
「じゃあ俺もその時間空けておくよ」
「じゃあ決まりだね」
それからまた彼女は幸田さんに電話をかけ明日3人で駅前のカフェで落ち合うことになった。