今度の日曜は
今度の日曜は
ということで来週のツーリングは無し、そう彼女の家に挨拶をしに行く事となった。
まあこれは仕方ない事だ、俺も腹をくくるしかないし、だが なし崩し的に同棲を始めるような気は俺には無いのではっきりと、三年後と五年後(就職後と給与の安定)を目途に計画していると話す事にした。
「解ったけどあまり期待すんなよ」
「え~だって~」
「俺達はまだ学生なんだぞ、もし子供が出来てもちゃんと育てていけるか解らないだろう」
「そうだけど」
「良いか、最低3年は一緒に暮らすのは待つ、それはお互いの為だ」
「うん解った」
「お金も大して稼げないのに生活していくのは大変だからな」
「それでいいよ、お父さんとしっかり話してくれるなら」
「じゃあ又な」
「りゅうちゃん今日もバイクに乗ってきたの?」
「ああ今日新しく仲間になった剛士ってやつといつもの相模湖まで行ってきたよ」
そこからは又バイクの話になって行った。
ミクにはあまり解らない話だと思うが、それでも俺と話たいのだろう。
新しい友達の話専門学校の話は1時間を越える頃、ようやく彼女の父から横槍が入り終了となった。
日曜日にはとうとう彼女の家へ、夏も終わり秋めいてきた風が少し気持ちよく感じる。
朝9時にはしっかり起きて顔を洗い歯を磨いて髪型を整える。
鏡には高校のころより大人になった気がするいつもの顔が映る。
着る服装はいつもと同じTシャツにジャケット、お見合いではないのだからスーツと言う選択はしなかった。
と言うかまだリクルート用のスーツなどは作っていない。
「じゃ行ってくる」
「ちゃんと挨拶してくるのよ」
「わかってるよ」
昨日母にはこの事を話してある、もし足りない事があったりしてそのせいでミクが悲しむのならそれは避けないといけない。
ただ、俺には初めての経験なので何をしたら良いのかなどはわからない、母のアドバイスは単純だった。
誠実に対応する事、後は言葉使いぐらい。
元々俺はそれほどひどい言葉は使っていなかったのでまずそこは大丈夫だろう。
だが大人の考えからすればそれでも常識が無いと思われることもある。
そんな事を考えていると又緊張してきた。
バイクはそんな時もいつものように俺を向かいいれた、キーを挿しセルを回す。
ブオン
いつもの道を彼女の待つ家へ、そこには父親の仕事に使う軽トラックが止まっていた。
塀の脇にバイクを停めると、高峰家の門をくぐり呼び鈴を押す。
ブー
「はい」
「おはようございます」
「入って」
出迎えたのはミクの母親、すでにミクは居間にて父の向かいに座り沈黙と戦っていた。
「お ~はいれ」
「お邪魔します」
ミクがここに座れと手で招く。
「は 始めまして北沢竜馬です」
「おお、知ってる」
「お父さん、あのね」
ミクが話し出すと父親がそれを制して話し出す。
「君はこれからどうするつもりだ?」
「はい、いずれ結婚を視野に入れてお付き合いをするつもりです」
「それで?」
「今は2人とも学生なのでまずは卒業して就職を目指します」
「北沢君だっけ、ミクは直ぐにでも同棲したいと言っているんだが」
マジか、それは俺も時期尚早だと思っている、俺もそれは避けたいところ。
「僕はまだ早いと思います、アルバイトはしていますが2人で生活するにはいろいろな部分で無理があると思いますから」
「え~毎日会えるのに?」
「それは同棲しなくても出来るでしょ」
「ほらおれが言ったとおりだろう、北沢君だってちゃんと考えが有るってな」
何か話し出したらお父様は結構まともな感じがしてきた、逆にミクのわがままなところが見えてくる。
「北沢君具体的な考えはあるのか?」
「僕は卒業して1年後がまず最初の関門だと思います、仕事は始めないと解りませんが若いときは色んなところで失敗すると思いますので」
「その後は?」
「5年後生活が安定した頃に結婚を考えています」
「俺もそう思う、俺の時はもっと早かったがそれは仕方の無いときだった、戦後の貧しさの中で早く自立する事を求められたからな、あの時もう少しゆっくり勉強できたなら大学にもいけたと思っている」
そこからは昔話、何故20歳で結婚して工務店(大工)を始めたのか、それは娘と結婚すれば一人前として認めてくれる、そして跡取りとしてバックアップすると義父に言われたからだ。
その後数年でその義父はこの世を去り、今はこの父が後を継いで高峰工務店を運営している。
従業員は12名、ベテランの職人6人とその2世が3人、弟子のような若者が3人この父の元で働いている。
彼自身は母子家庭で育ち、苦労を掛けまいと新聞配達をしながら高校へ通っていたが、彼女が出来てアルバイトが新聞配達から工務店の弟子に変わった。
そして弟子入りして2年でそこの娘と結婚その後直ぐに妊娠出産、現在子供は三人。
ミクには兄弟が下に2人いる、弟は12歳で妹はまだ10歳。
今のところ跡継ぎが必要との考えは無く、息子が後を継ぐかは12歳と言う事でまだわからない。
話を聞くと若いときの結婚なので、出来ちゃった婚かと思いきやそうではなかった。
そしてその時の母親の年が18歳、ちなみに高校の先輩後輩と言う間柄。
コクったのはなんと母親の方らしい、陸上部の先輩で確かにイケメンと言うより今は強面にしか見えないが。
当時はもてたらしい、要は母に上手い事乗せられて付き合い始めてあれよあれよと言う間に結婚させられてしまったという話。
なんとなく今の俺の状況が少しかぶっている、この父は流されると後で後悔するぞと言いたいらしい。
「だから家の娘を頼むぞ!流されないでちゃんと考えて計画するんだ」
「はいお義父さん」
その横では何とか初対談を終えたミクが複雑な表情をしていた、彼女の頭の中では早く結婚して子供を生んで幸せな家庭を作りたいというのが本音だろう、それは俺も同じだが。
直ぐに結婚してそうなるのかはわからない、と言うより幸せとはならず苦労すると言う形が目に見えている。
なぜ彼女が結婚を急ぐのかは不明だが、後でその辺りは聞いてみることにした。