諏訪温泉
諏訪温泉
温泉の脱衣所には必ず体重計と扇風機があるのは今も昔も変わらない。
汗臭くなったTシャツとGパンを脱ぎかごに入れると、ガラガラと戸を開け温泉へと入っていく。この旅館は内風呂のため窓の外は見えるが、そこから見える景色自体はさほど特筆すべきことは無かった。
先に湯を体にかけると体を洗うことにする、この時代はまだ液体のボディーソープなどというものはなくほとんどが懐かしい黄色いレモンの形をした石鹸を使用していた。
「きもちい~」
「おまえはやいな」
「なんだよそんなにきれいにして今夜やるつもりか?」
「いや何言ってんだよ、お前の目の前でなんかするわけないだろ」
「遠慮すんなよ、教えてやるからよ」
「教えてって、それほど経験値は変わらないだろう」
「へへへ、そうかな~」にや笑い
「もしかして知らない間に経験しているのか?」
「工事現場のオヤジ達にさそわれりゃそういう経験もするんだぜ、いいだろ~」
「いやべつに…」
まさか高志に先を越されるとは思いもよらなかった、だが一応これまでにミクとはキスまでは済ませている、その先へ行くのも時間の問題なのだが。
なんとなく俺には踏ん切りがついていない、ミクと最後まで行けば自由がなくなるような気がするからだ。
もともとバイクに乗りたいのは自由に何処へでも行けそうな気がしたからだ、自分がバイクに乗って何処へでも行ける、そんな姿を夢に描いているから、彼女を作ることが邪魔になると考えてしまう。
その頃はそんな風にも考えていた。
「でもいずれするんだろう」
「そりゃしないわけがないだろう」
「そうだよなあんな体を見せつけられてお前が何もしないなんて、俺には信じられないよ。俺ならすぐにやっちゃうけどな」
「仕方ないだろう、あいつにはちゃんとしておきたいんだから」
「へ~まあそれならいいけどな、もし手をつけないなら俺を含めて何人かが狙ってるって覚えておけよ」
「なんだよそれ、お前にも彼女いるじゃないか」
「あ~たぶん今日のでダメになったかもしんねえ」
「そのぐらいでか」
「だってバイクで行くから下はズボンかパンツだって言ったんだぜ、それなのにスカートってないだろ、まあその前にやっぱり行かないといわれりゃ、だめだってことじゃないか?」
「そうなのか…」
「まあ後でもう一度連絡はするけどな、バイクに乗らないんじゃ一緒にどこへも行けないだろう」
「確かにそうだな」
「だろう」
移動手段のバイク、休みになればそれに乗って出かけるのだ、彼氏の後ろに乗って風になれなけりゃ、付き合っている意味は無いに等しい。
俺たちがバイクに乗らなければ話はまた別なのだろうけど、それはこの先もあり得ない事。
「ふ~それにしてもここまできたか…」
「せいぜい湘南までだったのにな」
「ああ、いずれは北海道にも行きたいな」
「おお行こうぜ」
専門学校と大学、基本的には殆どお休みは同じと言って良い、夏休みに冬休みそして連休、そのたびに俺たち2人はツーリングの予定を立てていた。
但しそれはどう考えても彼女を作れるすきの無い旅行の計画ばかりだった。
女の子にもてる為にバイクを手に入れたのにツーリングの予定を立て旅をするたびに恋愛から離れていくのだからどうしようもない。
まあ彼女が免許を取ればそれはかなり解決に向かうのだが、果たしてミクにはその方向へと路線を変更してくれるだろうか。
その当時女子で中型免許を取得する子は殆ど居なかった、まず学校でも女子の会話にはバイクのバの字も出てこない、たまに出てくるのは車の方。
当時の車と言えばスカイラインのケンメリとかセリカといったスポーツタイプの車が徐々に流行り。
バイクを卒業した先輩達はそちらへ変更する事が多く見受けられたが、俺達は簡単にそちらへ変更する事は無かった。
「そろそろ出るか」
「ああ」
この当時は温泉と言えば露天風呂が目玉だった、それは今も変わらないが大きく変わったのはサウナだ。
昔の温泉にはサウナなどなかったし、水風呂も無かったと記憶している。
俺達は風呂からあがると温泉には良くあるマッサージチェアに腰掛けスイッチを入れる。
昔のマッサージチェアは至極簡単な動きをする、ただ背中を挟みながら上下に動くだけ。
このマッサージチェアも数年すると有料化されてしまう。
俺たちがマッサージチェアで寛いでいるとミクも風呂から上がったらしく、その姿はちょっとエロかった。
「あ~きもち~」
「あ~ずるい~」
「俺達は運転で疲れているんだから仕方ないだろ」
「え~~りゅうちゃん」
「ちょ、分かったよ…」
そういいながら目で訴えてくる、ミクのほうへ目をやると旅館に用意してあった浴衣を羽織って居るがその胸元はかなり盛り上がっていた。
仕方なく交代してやるとマッサージチェアの動きで浴衣がどんどん緩々になっていく。
ミクは数分マッサージチェアに腰掛けていたが、、昔のマッサージチェアはそれほど気持ちがいいものではない、若者にはまだ必要の無い者も居たりするので、ミクも少し座っていたが思っていたより気持ちよくは無かったのだろう、立ち上がると他の椅子に座って涼んでいたおれに問いかける。
「ねえこれからどうするの」
「ええと食事は7時だったよな」
「お土産買いにでも行くか?」
「その前に」
おれはミクに近づくと浴衣の襟を閉めなおし胸元をもっと隠すように浴衣を整えた。
「え~そういうことする?」
「俺だけが見るならいいが、そのまま外へ出ると馬鹿なやつが寄ってくるだろ」
「も~」
ミクはわざとやっている、もう確実にそう思う彼女は俺に振り向いてほしいから世話を焼いてほしいに変更したようだ。
それ自体は別に問題ないが、そのまま放っておくととんでもない事件に巻き込まれる可能性がある。
仕方が無いので先手を打つ、簡単な事だ手を繋いでやればいい、いままでは恥ずかしくて手を繋ぐ事さえあまりしていない特に人前では。
もう高校生ではないしここは学校でもないわけで、今は遠慮する事もないのだから。