蕎麦屋
蕎麦屋
バイクを沿道に停めてミクの指差す方を見ると、そこには蕎麦屋が1件有った。
昼飯時のためその蕎麦屋も駐車場に数台の車がとまってはいたが。
それでも他の店よりは俺たちを向かい入れてくれる可能性が高かった。
『分かったあの蕎麦屋に入ろう』
山梨や長野には当然のことながらこういう蕎麦屋が国道沿いに結構有った、もちろん当時はファミレスも数が増えていたがそれでも店の数は少なく、休みの日など昼食を取るのに入ろうとしても待ち時間がかなり必要だったと覚えている。
「ふ~涼しい」
「よくわかったな」
「道に看板があったよ」
「そう?」
走っていると見落とす事が多い看板、道路にはこういったお店の看板だけではなく、道の名前や行く先の地名などもところどころに掲示してある。
運転に夢中になると見落としがちだが、後ろでその柔らかい胸を押し付けていた彼女の話し声も中々俺に分からない為、退屈しのぎに看板を見ていたらしい。
店の中に入るとやはりほぼ満席、だが奥の座敷が少し空いているのが分かり俺達はそこへ通された。
「危なかったな、この店もタッチの差だぜ」
俺たちが入って直ぐに別のグループが入って来て、満員と知りしぶしぶ帰って行くのが見えた。
まあ蕎麦屋なのでさほど長居する客も居ないのだが、その日は気温が高く店のクーラー目当てで居座る客も居ないわけではない。
座敷に座るとメニューを手にする。
「何食べる?」
「カキ氷!」
「マジ!」
確かに店の中にも外にも旗が置いてあり、いかにもな感じだったが。
果たして蕎麦屋でカキ氷、いやいや何も言うまい女子とはそう言うものだ。
ミクはその後さらに餡蜜を注文した。
「おまっ!甘味ばっかじゃん」
「いいでしょ、喉かわいたし、結構疲れるんだよ後ろも」
「まあその通りだけどさ~」
俺と高志はお決まりの森蕎麦を注文し、その後は何故かソフトクリームを食べていた。
甲州名物巨峰ソフトクリーム、勿論ミクとシェアした事は言うまでもない。
「美味しかった!」
「いや蕎麦屋で蕎麦を食べないで美味しかったはないだろう」
「え~いいじゃん」
「もしかして巨峰のマーク?」
国道の電信柱には確かに葡萄のマークとソフトクリームの絵柄が、蕎麦屋の吹流しとは思えない。
男はそれを見て食事所とはあまり考えない、どちらかと言うと甘味所と取る、その為真っ先に食事を取る為に立ち寄る場所から除外していたのだ。
「確かにあれじゃ飯を取るときは避けるね」
「なんでよ、女の子は甘いものも食事だよ」
「あ~そうか、確かにそうだな」
女子を連れて行くとはこういうことも有るのだと言う事、考える事が違うため普段気がつかないことまで彼女らは考えている。
まあそれが良い方へ転ぶときもあれば、思っても見ない障害になる事も有るのだが。