第96話[鉄]
試食会を終え、家に帰宅した俺は何だか寝れずポチと朝方まで遊んでいた。
真夜中、こっそりポチと散歩をしに出かけた時はかなりテンションが上がったっけ。
前の世界では部屋から出る事も無く、昼夜問わずゲームしてたからな。
スマホの充電が無くなれば携帯ゲームやテレビゲームをして、たまにスマホと携帯ゲーム若しくはテレビゲームの二刀流もして、日夜ゲーム漬けの毎日を送ってたっけ。
たまにアダルトな時間もあったりと毎日が楽しかった。
正直、あの時の俺はそこら辺の人よりリア充してると思っていた。
だけど……。
「夜の街がこんな神秘的とは思わなかったぜ」
人が全く居ないし、暗い道を照らす街灯の明かりが何とも言えない。
ふと見上げると綺麗な星空が空一面に広がり、まだ明かりが付いている家を見て、まだ誰か起きてるのかなと妙な親近感が湧く。
こんな事なら前の世界でも夜に家を出ておくべきだったな。
そうすれば、少しは痩せていたかも……。
「ピキー」
「おお、ポチもテンションMAXか?」
「ピキー」
そういった事もあり、朝にはぐっすりと寝ていた俺だが、誰かの怒鳴り声で目が覚めてしまう。
誰だよこんな朝(昼)っぱらから起こしてくる奴は。
そんな事を思い苛立ちながら起き上がると、そこにはゾルドワーク国のお姫様が立っていた。
何故いるの?
「あんた、私が来てやったってのに何呑気に寝てんのよ」
招待してないので是非お帰り下さい。
などと言える訳も無く、俺は「ごめんなさい」と声を震わせて謝った。
「それで何の御用でしょうか?」
「あんた相変わらず目を見て話せないのね」
すみません、怖いので無理です。
「まあいいわ、それより私がここに来た理由だけど、あんたの本性を暴きに来たのよ」
えっ?
「あんたのせいで、一か月部屋から出られなくなったんだから」
いや、俺何もしてないけど?
つか部屋から出られないのに何故此処に居るの?
俺は恐る恐るゾルドワーク国のお姫様に尋ねると……。
「そんなの抜け出してきたに決まってるじゃない」
駄目じゃん。
つかどうやって此処まで来たの?
お金は?
そう尋ねると……。
「ハンッ、そんなのお母様の財布からクスネテやったわ」
俺みたいな事してんな、このお姫様。
「あの、大変申し上げ難いのですが、本人の前で本性を暴くと言っては意味ないかと」
誰だってこれから本性を暴くだの弱みを握るだの言われれば警戒してボロを出さないだろう。
そうお姫様に言うと……。
「なっ、なら忘れなさい」
いや無理だろう。
「キーっ、なら変な物が無いか探ってやるわ」
前の世界じゃ、完璧にアウトだけど。
この世界じゃ、全然セーフだな。
エロ本無いし。
そんな事を考えていると、セツコがやって来た。
「可愛いセッちゃんが遊びに来たよー」
「誰よこのブス」
「……」
おお、流石ゾルドワーク国のお姫様。
あのセツコを一言で黙らせる何て。
するとセツコはゾルドワーク国のお姫様に指を差し俺の方を向き、こう言った。
「セッちゃんコイツきらーい」
流石セツコ、王族相手でもコイツ呼ばわりとは恐れ入ったぜ。
顔を知らないとはいえ、服装で多少は高貴な人間だと分かるだろうに。
いやはや、セツコらしいというか何というか。
「あんた、私がゾルドワーク国のお姫様って知って言ってるの?」
「知らないよそんなもん」
「キィー、生意気なガキね本当に」
「馬鹿なのかしら?」
「プップー、馬鹿に馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ」
ああ、適当に相手してる時に言った俺の言葉……。
セツコの奴、覚えてたんだ。
「くっ、この……」
ゾルドワーク国のお姫様がセツコに向かってビンタした。
だが、普段から人を殴りなれてないせいか、それともセツコの体が硬いのか。
お姫様の手は赤く腫れ、痛みでお姫様は大泣きしてしまった。
「大丈夫?」
「ごめんね、セッちゃんが強すぎて」
可哀想だと思って謝ってるんだろうけど、最後の言葉のせいで嫌味に聞こえるぞ。
仕方がないので俺はルリ姉を呼び、お姫様を手当てする様に頼んだ。
そして……。
「くっ、まだ諦めてないから」
「しばらく、この街の宿屋に泊まる事にしたから覚悟しなさい」
そう言ってゾルドワーク国のお姫様は俺の部屋から出て行った。
「面白い人だったね」
セツコ、お前さっき嫌いって言ってたじゃん。
まあ、そんな事はどうでもいい。
それより部屋に鍵をかける方法はないものか……。
第96話 完




