第95話[修羅場]
サナを中心に貿易の話しはまとまり、俺達はゾルドワーク国で開かれる試食会に参加していた。
サナと俺、姫様と王様、そしてゾルドワーク国の王様とお妃様とゾルドワーク国のお姫様が食卓を囲む。
「勇者様とご一緒できて嬉しく思います」
そう言って俺に笑顔を向ける姫様。
「全く、勇者様がゾルドワーク国に来ると聞いて、この子ときたら、なら私も行きますと駄々をこねて大変だったんですよ」
「ちょっとお父様そんな事、勇者様に話さないで下さい」
そう言って姫様は顔を赤くした。
「いやはや、モテますなぁ勇者様」
うるさい。
茶化すなよサナ。
それにしても試食会か。
セツコは用事(お母さんに叱られ外出禁止)で来られないし、ルリ姉は家のお手伝い。
出来ればセツコの所と家の分もお持ち帰りできないだろうか?
皆んなに食べさせてあげたい。
そんな事を考えていると、ゾルドワーク国の姫様が俺の所へやって来た。
「あんたが勇者?」
「思ってたより大分不細工じゃない」
何だコイツ?
初対面で失礼な奴だな。
そう思いながら俺は視線を下に向けた。
この手の女性は大の苦手だ。
恐ろしくて目も合わせられない。
「ちょっと、人が話しているんだから目くらい合わせたらどうなのよ」
無理です。
誰か助けて下さい。
「コラッ馬鹿者、勇者殿申し訳ない」
「我が馬鹿娘が酷い事を……」
「い、いえ、全然平気です」
「ででできれば、二度と俺に近づけさせないで下さい」
声も体も震わせながら、俺は料理が運ばれて来るのを待った。
そして十数分後。
「どうぞ、海の国から頂いた魚を使った料理です」
目の前に置かれた美味しそうな料理を前にし、俺達は早速、フォークとナイフを使い、その料理を口に運んでいった。
「美味しいですわね勇者様」
「うん、すごく美味しいね」
あまりの美味しさに王様達も目を見開いて驚く。
「我が国も海の国と貿易したいものだ」
「だったら俺が海の国の国王様と話しをしますよ」
あっ、そうだ。
お持ち帰りできるか聞かないと、冷めてはしまうけど皆んなに食べて貰いたい。
特にルリ姉とセツコには絶対に食べさせてあげたい。
二人はこの国を救う為、頑張ってくれたんだから。
そう思い、ゾルドワーク国の王様にお持ち帰りできるか尋ねると……。
「チッ、何がお持ち帰りよ」
「そんなに食べ物に困っているのかしら?」
駄目だ。
挫けそう。
何だよこの姫様。
恐ろしい程怖いよ。
もう嫌だよ。
全然楽しくない。
「すみません勇者殿」
そう言ってゾルドワーク国の王様は自分の娘を叱りつけた。
そして、更に十数分後。
姫様の所で採れた野菜を使った料理が運ばれて来る。
「コレは見事ですな」
「甘みもあって、とても美味しいです」
「それは良かったです」
「民達と協力して作った自慢の野菜です」
「娘も時間があれば一緒に作っているんですよ」
そう言って王様は姫様の頭を撫でる。
「ほう、国民と王族が一緒になって畑を耕すか……、素晴らしい国ですな」
王様達がそう言って笑い合う。
ゾルドワーク国の専属シェフも、この野菜と魚を合わせて使えばもっと美味しい物が作れると王様に報告して、場が明るくなってきた時だった。
唐突にゾルドワーク国のお姫様がフォークとナイフを置いた。
「私、野菜大嫌いなんですけど」
「肉は作ってないわけ?」
「いや、我が国は野菜が自慢でして……」
王様がそう言って下を向く。
「野菜が自慢って何処の田舎よ」
「森に国でもある訳?」
そう言ってゾルドワーク国のお姫様が姫様の国を馬鹿にする中、ドンっと音と共に俺の隣に座っていた姫様が立ち上がった。
「先程から何ですか貴女の態度、それが一国の姫の態度ですか」
「何よ、田舎の国の姫が何を偉そうに」
「田舎で結構、貴女の様な下品な女に私の大好きな国や勇者様を貶されたくありません」
そう怒鳴り姫様はゾルドワーク国のお姫様を睨んだ。
ヤバいんじゃないのコレ。
「やめんか馬鹿者」
そう言って王様が姫様を怒鳴る。
「ですがお父様……」
「いいから謝りなさい」
「嫌です、謝りたくありません」
「いいから謝るんだ」
そんな中、ゾルドワーク国の王様が二人の会話に割り込み止めに入る。
そして……。
「誰かこの馬鹿娘を部屋に押し込めてくれ」
「なっ、お父様何故私が……」
「分からんのか?」
王様の質問に分からないとキッパリと言うゾルドワーク国のお姫様。
よくこの状況で分からないと言えるなぁ。
そんな事を思っていると、ゾルドワーク国のお妃様が口を開いた。
「押し込めるだけじゃ甘いですわ」
「一週間、外出禁止に致します」
「なっ、お母様まで……」
兵士達に連れられて、ゾルドワーク国のお姫様はこの場から退場した。
俺の隣で涙を流す姫様。
そんな姫様にゾルドワーク国の王様とお妃様が謝罪した。
「どうも娘を甘やかし過ぎました」
「私は王様としても父親としても失格ですな」
「そんな事は無いですよ」
「親なら子に対して甘くなるのは当然の事、自信をお持ちになって下さい」
「貴方は立派な国王で父親ですよ」
そう言って王様は姫様の頭を撫でた。
試食会が終わり、俺は姫様をゾルドワーク国の庭園に連れ出した。
事前に花を積んでも良いか許可を取り、俺は綺麗に咲いた花を摘み取って姫様にそれを手渡した。
「えっと、一応……、その、ありがとうございます」
「俺の為に怒って……、その……、コレどうぞ」
くそっ、緊張してまともに話せない。
「嬉しかったからその……、元気出して下さい」
「勇者様……、フフフ、何ですかソレ」
「もう少しハッキリと喋って下さい」
そう言って姫様が笑う。
俺は恥ずかしさで顔を真っ赤にさせていた。
「それじゃ、帰りましょうか」
そう言って皆んなの所へ向かおうとする俺を姫様が呼び止めた。
そして……。
「勇者様、大好きです」
月明かりに照らされ、美しく咲く花に囲まれながら、色白で頬は少し赤く、手には先程渡した花を持ち、笑顔でそう言う彼女を見て、俺は一瞬だけ美しいと思ってしまった。
第95話 完




