第94話[セッちゃん頑張るね]
握手会やら撮影会やらで稼いだお金を使い、大量の食料と飲み物を購入し、俺達はゾルドワーク国に向かっていた。
「セッちゃん、食べたら駄目だからね」
「うん、セッちゃん我慢する」
指を咥えながらそう言うセツコを見て、少し申し訳ない気がしてきた。
とはいえ、余るかどうか分からない以上、セツコに食べさせる訳にもいかない。
あの国は今もまだ貧しいのだから。
ルリ姉やセツコ、サナと協力してゾルドワーク国の皆んなに食べ物を配って行く。
「ありがとう勇者様」
そう言って皆んなからお礼を言われる。
何だか照れ臭いが、まあいいか。
それにしても初めて訪れた時と比べ、皆んなの表情が明るくなった。
王様も頑張ってくれているんだな。
そんな事を考えていると此方にゾルドワーク国の王様がやって来た。
「勇者殿、皆に食べ物や飲み物を恵んで下さり、ありがとうございます」
そう言って握手をする王様に俺はある相談をした。
「あの、貿易とか考えてみませんか?」
「貿易とは何ですか?」
そう言って首を傾げる王様に俺は貿易について説明した。
「しかし勇者殿、我が国では他国の品を買うお金がありません」
確かにお金は無くても、武器や防具がある。
ザネンが国民に重税を課せ吸い上げて作り出した武器や防具が。
「コレらを売ってお金や食べ物、飲み物を他国から仕入れるのはどうでしょう?」
「知り合いに王様が居るので貿易できるかお願いしてみます」
「ありがとうございます」
「勇者殿にはお世話になりっぱなしで本当に申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず」
後はサナを交えて相談だな。
一通り食べ物や飲み物を配り終え、帰りの馬車でサナに貿易について相談した。
そして帰宅後、俺はセツコを自宅に招き入れる事に。
「セッちゃん、これ今日のオヤツなんだけど良かったら食べて」
そう言って、俺はクッキーをセツコに手渡した。
「セツコちゃん、私のも良かったら食べて」
俺とルリ姉のオヤツを口一杯に頬張り、美味しいのか幸せそうな表情を浮かべながら、セツコはクッキーを食べていく。
「こんな美味しいクッキーは初めて、タッくん家ではいつもこんな美味しいクッキーを食べてるの?」
「ううん、多分だけどクッキーが美味しいのはセッちゃんが今日頑張ったからだと思う」
「セッちゃん一生懸命頑張っていたから、だから美味しく感じるんだと思うな」
「はわわ、そうなんだ」
「だったらセッちゃん、もっと頑張るね」
二時間後、このセツコの笑顔が泣き顔へと変わってしまう事に……。
時刻は夕方、俺の部屋まで響くセツコの泣き声。
いつもならオヤツの摘み食いで晩御飯が食べられなくなり、お母さんに叱られているんだろうなと思う所なのだが、今回の原因は間違いなく俺達だ。
俺とルリ姉は申し訳なさそうに隣の家のセツコの所に向かい、おばさんに事情を説明した。
うぅぅ、ごめんなセツコ。
あんな時間にクッキーを食べさせて。
第94話 完




