第93話[タッティーナの地獄の一日]
俺は自室のベッドでポチと一緒にゴロゴロして過ごしていた。
久しぶりのゆっくりとした時間。
思えば最近バタバタとしていて、こんなゆっくりな時間を味わう事は無かった。
もうずっと引き篭もっていたい。
だが、神様はそれを許さないのか、俺の部屋にジャビがやって来た。
「兄貴、すっげぇ美少女の写真を手に入れました」
そう言って見せられた写真は、ビキニを着ている俺だった。
つか、コイツ。
この写真が俺だと分からないのか?
兄貴と言って慕っている癖に……。
「見るからに優しそうな容姿、きっとセツコと違い、いきなりビンタしないんだろうなぁ」
「俺、一目惚れしたっす」
「はぁ、一度でいいから会ってみたい」
そう言って俺の写真を見てウットリするジャビ。
目の前にご本人が居ますなどと言える訳も無く、俺はジャビにその写真を何処で手に入れたのか尋ねた。
すると……。
「街の広場で錬金術師が銅貨一枚で売ってたっす」
あの野郎。
俺は部屋から飛び出してサナの所へ走った。
「おやタッくんさん、こんにちは」
「こんにちはじゃねーよ、何勝手に写真売ってんだよ」
そう言ってサナに怒鳴ると、銅貨が沢山入った巾着袋を俺の前に置いて、ゲスい顔で「どっさり儲けてます」と言って来やがった。
「あのなぁ……」
「でもまだ足りません」
「あの国を救うにはまだまだお金が足りないのです」
更に文句を言ってやろうと思ったが、サナのその言葉を聞いて、俺は黙ってしまう。
ゾルドワーク国の事を言っているのだろう。
稼いだお金はあの国の為に使うのか。
くそ、そんなのズルいじゃないか。
何も文句が言えなくなる。
「あんまり俺だとバレない様にしてくれよな」
そう言って立ち去ろうとする俺をサナが止めて来た。
「という訳で、ご本人登場の握手会、やってくれませんか?」
この後ルリ姉監修の元、俺は可愛い服を着せられ握手会をさせられる羽目に……。
長蛇の列にジャビが並んでいるのが分かる。
そして……。
「あ、あの、ナイスバディですね」
「キャッ、嬉しい」
「お名前は?」
「ジャビと申します」
「ありがとうジャビ君、また私の写真を買ってね」
「はい、絶対に買います」
ハァ、俺は何やってんだろう。
ジャビの次は女性だし、本当に最悪だ。
鳥肌と羞恥心、この二つと戦いながら、俺は何とかこの日を乗り切った。
ああ、明日からはずっと引き篭もっていたい。
第93話 完




