第87話[仲間]
俺は路地裏で謎の少女に怒られていた。
でも本当に見覚えないし、初対面だと思うんだけどなぁ。
俺がそんな事を考えていると、少女は何故だか顔を赤くしながら口を開いた。
「私だよ、メニ……だよ、お兄ちゃん」
いや、分かるかぁ。
全くの別人じゃねーか。
でも……。
「嬉しい」
俺はそう言って涙を流した。
「ちょっ、泣かないでよお兄ちゃん」
「だって、メニとまた会える何て思ってもみなかったから」
「ふっ、ふーん、そんなに私と再会できて嬉しいんだ?」
「当たり前だろ」
「そっか、そうなんだ……」
「なら、許す」
許すってさっき「誰?」って言った事かな?
あれは俺、そんなに悪くないとは思うけど、まあ別にいいか。
「つか、何でメニがここに居るんだ?」
俺がそう言うとメニは再び怒り始めた。
何でもメニは異世界転生をし、俺の女性恐怖症を治す為に頑張っていたとか。
そして、いざ魔王に挑む直前に神様から俺が死にそうだとお告げがあったらしい。
「何でそう死のうとするの」
「馬鹿なの?」
「お陰で願いの前借りでもう一周、異世界転生しなきゃいけないじゃない」
どうやらメニはこの世界に転移出来る様、神様に頼んだらしい。
つか、その歳でもう魔王戦なの?
十四歳くらいだよね?
「何だか納得いかない」
「俺は冤罪を晴らす為に過酷な異世界生活を送ってんのに理不尽だろ」
「まあ、落ち着いて」
「神様自身もこうなるとは思っていなかったんだから仕方ないじゃない」
まあ、確かにそんな事言ってたっけ。
お陰で赤奈ちゃんフィギュアも手に入ったし、余り文句は言えないな。
それにしても、メニの奴大丈夫なのか?
この世界のスライムは別の世界の魔王レベルなんだろ?
だったらスライムより圧倒的に強い兵士に勝てないんじゃ……。
俺は疑問に思い、その事をメニに話した。
すると……。
「大丈夫、私の世界では神力がかなり余っているから、それを使ってステータスを大幅に上げているの」
「それよりお兄ちゃん、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」
「何だ、答えられる事なら何でも答えるぞ」
時間軸がバラバラで異世界生活歴はメニの方が上だが、転生者としてなら俺の方が先輩だ。
そう先輩風を吹かしながらメニの話しを聞く事にする。
「赤ちゃんの時ってどうしてた?」
おぉ、メニもあの地獄を経験したのか……。
「アレ、最悪だよな」
「だね」
そんな話しをしていると、いつの間にか俺達は兵士に囲まれていた。
「見つけたぞ勇者」
剣を抜く兵士達にメニは俺を庇いながら戦い、逃走経路を確保する。
そして走って逃げるが、こんな事をやっていても埒があかない。
俺は立ち止まり、逃げるのを諦めた。
「もういいよ」
「俺が死ねば、この国の街の人や人魚達が助かる」
「だからもういい」
「それの何処がいいの?」
「お兄ちゃんは何も分かってないよ」
そう言ってメニは語る。
残された人がどう思うのかを。
自分が死んで悲しむお母さんを見るのが辛かった事を。
「そんな弱気なお兄ちゃんは大っ嫌い」
「もっと仲間を信じなよ」
「お兄ちゃんには素敵な仲間が居るでしょ」
優しくて才能に恵まれたルリ姉、力がとても強いセツコ、変人で天才なサナ。
確かに、俺には凄い仲間達が居る。
だけど、こんな事に巻き込める訳……。
「どうやら時間みたい」
そう言ってメニの体が薄くなっていく。
「私が消えるって事はお兄ちゃんの仲間達が駆けつけて来たんだね」
「ちょっと妬けちゃうかも、私ももっとお兄ちゃんの為に戦いたかった」
ルリ姉達が駆けつけるって?
そんな……、あんなに酷い事を言ったのに……。
「いい、仲間をちゃんと信じてあげて」
「う、うん」
「それと、お兄ちゃんも感じていると思うけど、この国に漂う邪悪な魔力の気配、只者じゃ無い何かが居ると思うの」
えっ、そうなの?
「お兄ちゃん、その顔……、まさか気づいていなかった訳?」
「バッカ、気づいとるわ」
「本当にぃ〜」
うっ、そんな目で見ないで下さい。
「まっ、いっか」
「それじゃ、お兄ちゃんバイバイ」
「死なないでね」
「ああ、ありがとなメニ」
メニは消え、俺は兵士に取り押さえられる。
そんな中、上空からチョコが現れてセツコ達が俺を助けてくれた。
「タッくん、セッちゃんが来たよ〜」
「タッティーナ無事?」
「全く、勝手に行動をしないで下さいよ」
「私達、友達じゃないですか」
「お願いですから少しは頼って下さい……」
皆んな……。
俺は立ち上がり、皆んなに謝るとお城を目指し走った。
大丈夫、やれる。
皆んなとなら、この国の国民達を……、人魚達を救える。
そう強く思って、俺は走った。
第87話 完




