第85話[姉の涙前編]
時は少し遡り、ポチはルリを必死に起こしていた。
ルリの体の上で跳ねてみたり、ルリの顔の上に乗ってみたり、ルリの顔めがけ軽く体当たりなどをして、ルリはようやく目を覚ました。
辺りを見回して、ここが自分の部屋だと気づき、ルリの顔が青ざめていく。
そして、部屋を飛び出してタッティーナの部屋に向かうが、部屋にはタッティーナの姿は何処にも無かった。
一人でゾルドワーク国に行ったんだと理解したルリは急いで身支度を済ませ、家の玄関のドアを開けたその時、ポチが家から出て行き隣のセツコの家の玄関を体当たりで壊す。
「ちょっとポチ、何やってんの」
慌ててポチの後を追うルリ、するとセツコの母親が声をかけてきた。
「ちょっとルリちゃん、どうしたの?」
「顔色が良くないみたいだけど、何かあったの?」
「いえ、別に……」
「それよりポチを連れて帰ります」
「後、ドアもちゃんと治しますから」
そう言ってルリはポチを追いかけ二階に上がる。
ポチはセツコの部屋のドアを体当たりで壊し、ルリ同様に一生懸命セツコを起こすのだが……。
「うーん、邪魔」
セツコはポチをベッドから投げ捨てると、再び大きなイビキをかき眠った。
一筋縄では起きないセツコを前にしてもポチは諦め無かった。
大好きなタッティーナの為、ポチは再びセツコに向かって走り出したが、ルリに背後から掴まれて身動きが取れなくなってしまう。
「ほら、時間が無いの、分かって」
そう言ってポチを抱きかかえ帰ろうとするルリの前にセツコの母親が現れた。
「セツコ、起きなさい」
母親の言葉に、セツコは眠そうに欠伸をし、起き上がる。
「朝ご飯食べる」
そう言って立ち上がるセツコ。
母親が起こしに来るという事は朝ご飯ができた合図だと、セツコの中で常識化されていた。
「今日の朝ご飯は何かな……、ってルリ姉ちゃんとポッちゃん?」
「どうしたの?」
「朝ご飯、食べに来たの?」
そう言ってルリの顔を見つめるセツコ。
そんな中、ルリは答えた。
「違うわ、ポチが勝手に……、ほらっ、帰るよ」
そう言って帰ろうとするルリをセツコは止めた。
「タッくんに何かあったの?」
ルリの表情から元気が無い事を理解したセツコ。
ルリがあんな顔をするのはタッくん絡み以外、考えられない。
「教えてルリ姉ちゃん」
セツコの言葉にルリは耐えきれず涙を流した。
ポチを抱えたまま、両膝をつき、ポチの頭の上にルリの涙が落ちていく。
こんなルリを見たのは初めてだ。
セツコもセツコの母親もそう思い、ルリに近づき背中を摩ってあげる。
「ルリちゃん、タッくんに何があったの?」
優しくそう尋ねるセツコの母親にルリは全てを話した。
「セツコ、今すぐ用意をしなさい」
「うん、ママは朝ご飯よろしく」
「なっ、駄目です」
「絶対に駄目、相手は国、何かあったらタダじゃ済まないんですよ」
そう叫ぶルリにセツコの母親は優しく笑い掛けた。
「何言ってんの、むしろ逆よ」
「相手は私の自慢の娘と天才魔法使いを相手にしなきゃいけないのよ」
「タダじゃ済まないのは相手の方だわ」
そうセツコの母親がルリに話している中、セツコの父親が現れた。
「話は聞かせて貰った、セツコ、タッくんを助ける為に私が若い頃使っていたナックルを持って行きなさい」
そう言って差し出されたナックルをセツコは床に投げ捨て、頬を膨らませた。
「セッちゃんそんな汚いのより、食べ物がいい」
「ああ、私の思い出のナックルが……」
「全く、あんたって人は本当、格好がつかないんだから」
「セッちゃん食べ物がいいの」
「分かったよ、パパの夜食のオヤツあげるから、機嫌直して」
「わーい、パパ大好き」
こうしてセツコはルリと一緒にゾルドワーク国に行く事になった。
「そうだ、サナちゃんも呼ばないとだね」
第85話 完
第86話へ続く。




