第83話[ゾルドワーク国]
「お客さん、着きましたよ」
俺は馬車の操縦士のおじさんの声で目が覚める。
昨日は一睡もしてなかったからな。
お金をいつもより多く支払い、俺はゾルドワーク国の城下町を見て回った。
「酷い……」
思わずそう呟いてしまう。
家はボロく、国民の殆どが見窄らしい格好をしていた。
俺は家から持って来たお金でパンを買い、子供達に分け与えていく。
そんな中、一人の少年が首を横に振った。
「僕はいいです」
「どうか他の子にあげて下さい」
「遠慮するなよ」
「パンはまだある」
「だから……」
「本当に大丈夫です」
「僕は食べなくても、まだ平気ですから」
少年の考え方に俺は絶句した。
まだ食べなくても大丈夫って、そんな考え方……。
お腹が空いたら食べる。
そんな当たり前の事がこの国では出来ないんだ。
だから、こんな考え方を持った子供達が生まれてしまうのか。
譲り合いは確かに素晴らしい事だが、譲り合わなければ生きていけないこの状況は最悪だ。
「分かった、君の言う通り他の子にあげるね」
「でも大丈夫、俺が必ず何とかするから、だからもう少しだけ待っててくれ」
そう言って俺は少年の頭を撫でた。
「優しいんですね勇者様」
「優しく何か無いよ」
「俺はどうしようも無い、駄目勇者さ」
そう言って俺はその場から去った。
一通りパンを配り終えた俺は広場で演説を行った。
皆が一丸となって悪政に立ち向かうべきだ。
そう言った事を話し、皆んなに語りかけていく。
だが、誰も聞く耳を持たない。
そんな彼らに、俺は右手の甲にある勇者のアザを見せた。
「なっ、勇者様……」
「勇者様が助けに来て下さった」
絶望していた皆んなの表情が希望に満ちた表情へと変わる。
そうだ、もっと騒いでくれ。
兵士達が気付く位、盛大に……。
「何事だ」
騒ぎを聞きつけた兵士達が俺達を囲む。
国民は兵士を恐れ逃げ出す中、俺はたった一人、兵士達に立ち向かって行く。
「おい、勇者様が立ち向かって行ったぞ」
「俺達も行くべきじゃ無いのか?」
国民達がざわつき始め、兵士に立ち向かって行こうとする。
そんな中、俺はそれを止めた。
「右手のアザ……、おいどうする?」
「どうするも何も、勇者を傷つけたとあらば周辺諸国だけじゃ無く、世界中を敵に回す事になるぞ」
「陛下に判断を仰ぐしか、それしか無いだろう」
こうして俺はゾルドワーク国王と会う機会を得た。
第83話 完