第70話[祖父]
辺り一面、見渡す限り闇。
そんな中、私の祖父は椅子に座っていた。
「サナよ、どうしたんじゃ」
そう言って祖父は心配そうな表情を私に見せた。
「錬金術に行き詰まりまして」
「お爺ちゃんが私の前に居るという事は此処は夢の世界なんでしょうか?」
死者が現れる何て現実的に考えてあり得ない。
人は脳があってこそ行動できる……。
いえ、他の殆どの生物がそうか。
まあ、どちらにせよこれが夢なのは間違いないでしょう。
セッちゃんさんが眠花を持ってきてましたからね。
それにしても、こんなに自由に考えたり行動できる夢は初めてです。
これも眠花の効果何でしょうか?
「夢の世界だとして、ワシがお前に会えて嬉しいという気持ちは変わらん」
「おいでサナ、可愛い孫を抱きしめさせてくれんか」
くだらない。
これは私が見せている夢。
一刻も早く目覚めて錬金術に取り掛からなきゃいけないのに、私はお爺ちゃんの胸に飛び込んでいた。
「ワシはお前の笑った顔が好きじゃ」
「とても幸せな気持ちになる」
知ってる。
お爺ちゃんの口癖だから。
「じゃが、無理してはならん」
「泣いてもいいんじゃよ」
「でも……」
「お前は誰よりも優しい子じゃ、ずっとスライムを殺そうと言った事を引きずっておるのじゃろう」
「ええ、そうです」
「ですから私は優しい子なんかじゃ……」
そう、私は優しい子何かじゃない。
人々を笑顔にするのにも訳がある。
だから……。
「ありがとな、サナ」
「お前を残し死んでしまったワシをいつまでも想ってくれて……」
お爺ちゃん。
私の瞳から涙が溢れ落ちていく。
此処は夢の世界。
私の世界。
だからなのか、気が緩み私は普段誰にも見せない様にしている涙を流してしまった。
旅は良い事ばかりでは無い、辛い事も沢山ある。
それでも私は無理してでも、人前では笑っていた。
「いいか、サナ」
「錬金術は心が乱れてはいかん」
「ええ、知ってます」
「ですが、私は……」
「過去の事は考えるな、今の事を考えろ」
「あの、勇者達家族を救いたいのだろ?」
「ですが期限が……」
「お前ならできる」
「お前はワシの……、このバルサ・ナントレイの孫、サナ・ナントレイなんじゃから」
お爺ちゃん……。
徐々に体が薄くなってきている祖父を見て、私の涙が止まらない。
もう少しお爺ちゃんと話していたい。
この街で知り合った、とんでもなく強い少女にとんでもなく弱い勇者。
嫌いな筈の魔法使いとも仲良くなった。
それらの事を話して、大好きだと言ってくれた笑顔をお爺ちゃんに見せたい。
だけど、それは叶わない。
もう、夢から目覚める時間なのだろう。
「最後にサナの笑顔を見せておくれ」
私は最高の笑顔をお爺ちゃんに向けた。
そして私は目を覚ました。
泣いていたのか……。
私は起きて涙を拭うと釜に向かった。
「んっ……、サナ?」
「おはようございます、タッくんさん」
「色々と心配かけてすみません」
私はそう言うとタッくんさんに最高の笑顔を向ける。
フッフッフッ、今なら何でも作れそうな気がする。
見ていて下さい、稀代の錬金術師バルサ・ナントレイ……、私の大好きなお爺ちゃん。
私が錬金術で奇跡を起こして見せます。
第70話 完




