62話[賢い]
サナが錬金術で作ったお菓子メーカー。
驚く事に材料を入れるだけでプロ顔負けのお菓子を作り出していた。
「はわわ、美味しすぎてセッちゃん幸せだよ〜」
「本当ですわ」
「こんな美味しいケーキ、食べた事ありません」
「アハハ、まあ採れたての木の実も使ってますからね」
「それより姫様どうです?」
「今なら金貨一枚で販売しますよ」
「さあ、お隣のお父様とお母様におねだりを」
いや、それだけデカい声で話してたら王様もお妃様も聞こえてるよ。
それにしてもかなり便利な道具だな。
前の世界にコレがあったら、ケーキ屋が泣くんじゃないのか?
少し欲しいかも……。
そう思い、俺はサナに値段交渉をする事にした。
「サナさん、友情割引きってできます?」
そんな時だった。
「えっ、タッくん買うの?」
「じゃあ、コレから毎日タッくんの家に行けばケーキやクッキーが食べ放題なんだね」
「セッちゃん嬉しい」
えっ?
「コラ、セツコ」
「すみません、家の娘が」
「いえいえ、セッちゃんには家のダメ息子がお世話になってますから」
「セッちゃん、毎日家に遊びに来て良いからね」
母さんは優し過ぎだよ。
つか、値段も聞いて無いのに買う気なの?
俺、要らなくなったんだけど……。
「ちょっと母さん、コホン」
「甘い物ばかり食べると太っちゃうから……」
そう言った瞬間、父さんは母さんにビンタされた。
父さんよ、女性に太るとか言っちゃ駄目だよ。
「私はいいかな」
「タッティーナが作るケーキとかの方が私は好きだわ」
ルリ姉……。
「まあ、勇者様の手作りケーキ……」
「私、食べてみたいですわ」
姫様、顔が近いです。
「私もタッくんさんのケーキ、食べてみたいです」
サナまで……。
二人に囲まれる中、俺はプニッとした感触を右手に感じた。
「キュッ」
先程助けたスライム?
そう思った瞬間、俺は母さんに抱き寄せられた。
「こんな所に魔物」
「あなた、お願い」
「任せろ」
スライムに向かって行く父さんをルリ姉が止めてくれた。
俺達は事の経緯を両親達に伝える。
「何と、魔物を助けたとな」
「流石勇者殿、何と慈悲深い」
「我が娘との婚約を是非」
「ええ、タッティーナさえ良ければ私達は別に」
母さん、王様に何言ってんだよ。
「プププ、こんにゃくだって」
セツコ、こんにゃくじゃ無く、婚約な。
つか、こんにゃく知ってんのか?
「キュッキュキュ」
スライムが俺の膝の上に乗ってきた。
何か可愛い。
木の実食べるかな?
そう思い、俺は赤い木の実を食べさせてあげる。
するとスライムの体が赤色に変わる。
「何か面白い」
「セッちゃんもあげる」
セツコが木の実をあげようとした時、スライムは急いで姫様の膝の上に移動した。
「まあ、フフフ」
「可愛いスライムさんですね」
「プププ、セッちゃんが美少女過ぎて照れちゃったんだね」
すっげぇーポジティブ。
すごいよセツコ。
俺ならそんな考え方できないよ。
しばらくスライムを観察して分かった事がある。
どうやら、セツコとルリ姉、そして大人達には近寄らない。
何故だろう。
疑問に思い、俺はその事をサナに話す。
すると……。
「恐らく、怖がっているのかと」
怖がる?
セツコは兎も角、ルリ姉も?
「お二人は強いですからねぇ」
「いや、それならサナも強いじゃないか」
お城で暴れていたじゃん。
骸骨兵士を楽々倒してたじゃん。
俺はその事をサナに話した。
「私は錬金術の道具が無ければ、ただのか弱い少女ですよ」
「セッちゃんさんの様に強く無ければ、ルリさんの様に魔力が多い訳でも無い」
「タッくんさんにも敵わないでしょう」
えっ、そうなの?
そっか、弱いのか。
って事は俺と同じ……、な訳ないか。
サナは天才錬金術師なんだから……。
「キュッ?」
まあ、いいか。
今はこうしてスライムに触れられてるんだし。
それに、強すぎるのも考え物なのかもな。
スライムに触れられ無くてルリ姉は泣いてるし……。
俺はそんな事を考えながらスライムの頭を撫でてあげた。
第62話 完




