第52話[幽霊]
お城から帰ってからロクな事が無い。
歯を磨き口を濯いだ後、鏡を見ると手形がビッシリついているし、俺の悲鳴を聞いて家族が駆けつけて来た時には手形は消えていて変人扱いされる。
お風呂に入り頭を洗っている時にはエンドレスシャンプーの悪戯までされ「あれっ、泡が落ちねーな」何て独り言を言う始末……。
夜、寝る時には子守唄をホラーボイスで歌い俺を恐怖のドン底に落としてくるし、もう勘弁して欲しい。
「あの、全力で協力しますんで成仏してくれませんか?」
「本当⁉︎」
「ええ、何したら成仏してくれます?」
「お兄ちゃんが馬車に轢かれたら嬉しくて成仏しちゃうかも」
「無理です」
「後、目玉を落とさないで下さい」
「それと血を吐きながら笑わないで下さい」
「本当に怖いです」
本当にどうしたら成仏してくれるんだろうか……。
「え〜、なら足舐めろ」
えっ、いきなり何言ってんですか。
幽霊の足を舐める何て普通に無理なんじゃ……。
「早くしてよお兄ちゃん」
「じゃなきゃ、呪っちゃうよ」
俺はプライドを捨てて少女の前に跪いた。
次の瞬間、少女は俺の顔を掴み目玉と血を俺の顔に落としていく。
「騙すなんて卑怯者」
「フフフ、幽霊は人を怖がらせるのが仕事だから」
俺はその後も色々と驚かされ、気付いたら朝を迎えていた。
「タッティーナ、どうしたの?」
顔色の悪い俺を見て心配するルリ姉に俺はしがみつき、大泣きする。
その様子を部屋の隅でニタニタと笑いながら見つめる少女を見て、俺はある決心をした。
くそっ、そっちがその気なら……。
俺は翌朝、朝一にセツコの家に向かった。
「タッくんが家に来る何て珍しいね」
「もしかして私に告白しに来たの?」
「えっ、あっうん」
「えっ⁉︎」
「セッちゃん、俺の肩に巣食う邪をセッちゃんの愛の拳で振り払ってくれない?」
「よく分かんないけど、セッちゃん頑張るよ」
どうだクソ餓鬼幽霊、セツコの拳は痛かろう。
そう思い肩に居る幽霊を見てみると……。
「無駄だよ〜」
口から血を垂らしながらケタケタと笑っていた。
「セッちゃん、何やってるの」
「セッちゃんの愛、全然足りて無いよ」
「えっ、ごめんなさい」
「セッちゃん、もっと頑張るね」
くそ、何でセツコのパンチが効かないんだよ。
つーか、もう止めてよ、すごく怖いから。
こうして幽霊はセツコに倒される事無く、俺に取り憑いたまま俺は地獄の様な日常を送るのだった。
(もっともっと、怖がらせてあの世に連れて行かないと)
第52話 完




