第42話[風邪]
この日俺は風邪を引いて寝込んでいた。
急激な気温変化により体調を崩す者が数多く出て、父さんと母さんはボランティアで一人暮らしの家やお年寄りなど困っている人達の所へ行って看病している。
「タッティーナ、大丈夫?」
俺はルリ姉に看病されながら風邪が治るまで体を休めていた。
そんな中……。
「タッくん大丈夫?」
セツコがやって来た。
「ドラゴンゾンビのお肉でスープを作ってきたから食べて」
どうやら俺にトドメを刺しに来たらしい。
「セツコちゃん、ドラゴンゾンビのお肉はちょっと……」
いいぞルリ姉、セツコを追い出してくれ。
「大丈夫だよルリ姉ちゃん」
「ドラゴンのお肉は体に良いんだよ」
ドラゴンの肉が体に良いのかは知らんが、それは腐ってなければの話しだろ?
「そうだセツコちゃん、これから私と一緒にお料理しよ」
「タッティーナはその……、今ドラゴンのお肉は食べたくないみたいだし」
俺は風邪で弱っている中、全力で首を縦に振った。
あんな腐乱臭のした緑色のスープ何て絶対に飲めるか。
「ルリ姉ちゃんと料理……、凄い楽しそう」
セツコは嬉しそうにバンザイをする様に両手を上げた。
そのせいで俺の部屋の床に散らばるドラゴンゾンビのスープ。
「あっ……、まっいっか」
「ルリ姉ちゃん早く行こう」
まっいっかじゃねーよ。
くっさい匂いが俺の部屋に充満してるじゃねーか。
俺は悪臭と吐き気、この二つと戦いながらセツコが来るのを待つ。
絶対に掃除させちゃる。
「タッくん出来たよ」
しばらくしてセツコだけがやって来た。
文句を言おうと口を開けた瞬間、セツコは出来たてのスープを俺の口に入れて来やがった。
スープの熱さで舌が焼け、過剰な塩分で俺の血圧が急上昇する。
「うっわ、何だこれ?」
「水……、水〜」
まるで海水を飲まされた感覚に襲われながら、俺はセツコからコップ一杯の水を受け取り飲み干した。
ザラザラとした感触と共に急激な甘さが俺の口を支配する。
「あっまぁ〜」
何だよコレ、砂糖が大量に入ってるじゃねーかよ。
つか、砂糖が溶けきれずコップに溜まってんじゃねーか。
「ハァハァ、タッティーナ食べちゃったの?」
慌ててルリ姉が俺の部屋にやって来た。
俺はコレが何なのか尋ねると、ルリ姉は下のキッチンで何が起きたのか話してくれた。
時は少し遡り、二人が順調に料理を進めている中、唐突にセツコが塩の袋を取り出した。
「やっぱり塩分は大切だよね」
「コレだけじゃ足りないよ」
袋にあった塩を鍋に全て入れるセツコを見てルリが慌ててセツコを止めた。
だが時すでに遅し、大量の塩が入った鍋をセツコは鼻歌交じりでかき回していた。
(どうしよう、作り直さないと……)
「よしっ、出来た」
「えっと、セツコちゃん」
「コレを出すの?」
「うん、そうだよ」
「えっと、味見は?」
何とか食べられない事を伝えようと味見を提案したルリだったが……。
「ルリ姉ちゃん、味見は失礼な行為にあたるんだよ」
「味見はね、自分の料理に自身が無いからするの」
「そんな料理を相手に出すのは失礼なんだよ」
(えっと、どうしよう……)
セツコを傷つけず、尚且つ別の料理を提案しようと考えるルリ、そんな中、セツコはドリンクを作っていた。
(辛いの次は甘いだよね)
コップ一杯に砂糖を入れ、その上から水を注いではかき混ぜるを繰り返すセツコ。
「そうだ、セツコちゃん」
「もう一品作ろうよ」
「ちょっと材料取ってくるから待ってて」
「はーい」
そう元気に返事をしたセツコだったが……。
「あれ?」
「ルリ姉ちゃん何て言ってたっけ?」
「まあいいか、タッくんに食べさせてこよう」
そして今に至る。
「えへへ、タッくん私の料理どうだった?」
「ゲロマズだよ」
俺はルリ姉が持ってきた水を一気に飲み干してそう叫んだ。
第42話 完




