第38話[危険なお茶会後編]
俺は姫様といっせーのっせゲームをしていた。
「いっせーのっせ、ニ」
「ああ、また負けてしまいました」
「勇者様ったらお強いのですね」
「いや、そんな事はないけど……」
「ルリ姉なんかは俺よりもっと強いし」
ルリ姉が俺に遠慮して手加減していた時以外は全部負けてる。
逆にセツコには絶対に負けなかったけど……。
あいつ、一しか言わないし、親指も毎回一つしか上げないからなぁ。
勝つたびに「タッくん卑怯」って言ってたっけ。
「次は負けませんわよ」
「いっせーのっせ……」
俺と姫様がいっせーのっせで遊んでいると姫様の部屋の扉が開き、何故かルリ姉と両親が居た。
「ルリ姉、無事だったんだ」
俺はルリ姉に駆け寄り抱きしめる。
良かった、無事に魔水晶が手に入ったんだね。
そう思い、ルリ姉の顔を見上げると……。
「あれ?」
「ルリ姉何で顔が真っ赤なの?」
「えっ?」
「何でも無いわタッティーナ」
時は遡り。
ルリを先頭にお城をどんどんと進んで行くタッティーナの家族御一行。
「侵入者だ囲め」
兵士に囲まれる中、ルリは風の魔法を使い兵士達を吹き飛ばし道をあける。
「おお、流石ルリ……、頼もしいなぁ」
「あなた、ちょっとはしっかりしてよ」
「ルリばかり戦わせて」
「フフフ、いいの」
「パパとママが側に居るだけで私は何倍も強くなれるわ」
そう言って笑い合う三人の元に大臣が現れた。
「おや、これはルリ様」
「そちらは……、もしかして勇者様のご両親?」
「ハハハ、ご家族で勇者様をお迎えにいらしたのですか?」
「勇者様は今、姫様の部屋におられます」
「えっ?」
「姫様の部屋?」
「牢屋じゃなくて?」
「えっ、何故牢屋?」
こうして誤解は解け、ルリは大きな黒歴史を背負ってしまう事になった。
ルリ姉と合流した俺達は応接室で国王とお妃様から謝罪を受けていた。
「この馬鹿者、何故ワシに一言いわぬのじゃ」
「そうですわ」
「あなたの身勝手な行動で勇者様のご家族に迷惑が……」
「ですがお父様、お母様」
「兵士が無理矢理、勇者様をお連れになるなど誰が想像できます?」
まあ、確かにあの兵士は本当にやばいと思う。
縄で縛ったりするからな。
普通にやばい。
元盗賊か何かか?
「いえ、王様」
「悪いのは全部私です」
ルリ姉……。
「私、タッティーナが王位争いの人質になったと思ってその……」
国の兵士を殆どぶっ飛ばしたんだろ。
正直、それを聞いて驚いたよ。
ルリ姉って以外と強いんだな。
「いやいや、悪いのはワシらの方じゃ」
「そうですわ」
「勇者様には本当に怖い思いをさせてしまい申し訳ない」
「本当ですよ」
「コラッ、タッティーナ」
そう言って母さんが俺を止めるが俺は喋るのをやめなかった。
「俺、このまま売り飛ばされると思い、凄く怖かったんだから」
「大体母さんも母さんだよ」
「普通は誘拐されたと思うからね?」
「だからルリ姉がとった行動は間違いじゃないよ」
「タッティーナ……」
正直、俺はもう怒っていないが、こうでも言わないと、このままじゃルリ姉が悪者になってしまう。
幾ら王族が許しても部下達が許さなかったら意味が無いしね。
こう言っておけば向こうに非があるから文句は無いだろう。
「もし俺がルリ姉の立場なら命懸けでルリ姉を助けに行っただろう」
「とはいえ、この件で姫様からも謝罪は受けたし姫様に免じて許そうと思います」
「それでいいですか王様?」
「勇者様が許してくださるのならワシは何も……」
良かった無事に解決した。
「勇者様、お優しいのですね」
「私に免じてだなんて……」
「私、勇者様の事を生涯お慕いしたいと思っております」
抱き着こうとする姫様を俺は交わし、ルリ姉達と帰る事にした。
帰りの馬車でルリ姉は俺を抱きしめながら尋ねてきた。
「お姉ちゃんがもし囚われたら命懸けで助けに来てくれるって本当?」
「本当だよ」
「父さんや母さんも同じ」
「二人が囚われたら命懸けで助けに行くさ」
「うん、そうだね」
「家族がピンチの時は助け合わないとだね」
ルリ姉は笑っていた。
父さんも母さんもだ。
そして俺も笑った。
今日は何だかんだでいい一日だったなぁ。
ルリ姉や父さんと母さんが俺を助け出そうとお城に来てくれたと知って俺はすごく嬉しかった。
この二人の子として、このお姉ちゃんの弟として生まれてきて本当に良かったと思っている。
まあ、幼馴染やスライムには嫌な思いをさせられてるけどね。
第38話 完




