第36話[危険なお茶会前編]
「じゃあねタッティーナ」
「お姉ちゃん出かけてくるね」
午前三時、ルリ姉が前にセツコがドラゴンゾンビを倒した洞窟へ大きなリュックを背負い出かけて行った。
何でも洞窟の奥地にある早朝にだけ現れる魔水晶を取りに行くとか……。
大人ぶってはいるがルリ姉はまだ子供、いくら大魔導士の資格を持っているとはいえ心配だ。
「母さん、ルリ姉大丈夫かな?」
「ルリなら心配いらないわ」
「まだ早いから寝なさい」
俺は母にそう言われ寝る事にした。
そして朝、事件は起きた。
何やら城の兵士がやって来て姫様が呼んでるとか。
俺はルリ姉の帰宅もまだだし、心配だから適当な嘘を吐き断った。
「今日は幼馴染のセツコと遊ぶ予定だから無理」
するとどうだろうか?
兵士は俺の口を塞ぎ、体を抱え無理矢理連れ出そうとしているではないか。
「それではお母様、お父様、息子さんをお借りしますね」
「はいどうぞ〜」
母さん、何呑気な事言ってんの?
「うむタッティーナ、姫様に無礼のないようにな」
父さん、誘拐だよコレ?
無礼を受けてる側だよ俺?
強引に馬車へ連れて行かれ、俺は身体を縄で縛られる。
その際、兵士はこんな事を口にしていた。
「フヘヘ〜、ボーナスゲット」
馬車に揺られ数時間。
俺は姫様の部屋へ連れて行かれた。
「ようこそいらっしゃいました勇者様」
「さあ、お席へどうぞ」
俺は不機嫌そうに椅子に座った。
それに気づいたのか、姫様がどうしたのか尋ねてきたので、俺は事の経緯を説明した。
「あの、こんな連れ出し方やめてもらえますか?」
「勇者様……、本当に申し訳ありません」
「無理に連れて来いとは申しつけておりませんのですが……」
姫様の話しを聞いて理解した。
姫様は俺を呼びに行くのに手間がかかるだろうと兵士に手間賃として幾らかお金を渡すと話していたらしい。
だが、兵士は何を勘違いしたのか俺を連れて来れば臨時ボーナスが手に入ると思い半ば強制的に連れ出したのだ……。
「本当に申し訳ありません」
「いや、俺も勘違いで姫様に酷い態度とったんで痛み分けという事で……」
「勇者様、お優しいのですね」
笑顔を向ける彼女に俺は困っていた。
このまま彼女の好意を放置して良いものか……。
ふと、俺はある事を思いつく。
そして俺は思いついた事を口にした。
「姫様、実は俺……、男が好きなんです」
「まあ、そうだったのですか」
「はい、だから……」
「大丈夫ですよ勇者様、私はどんな勇者様でも受け入れる所存です」
えっ?
「私のお父様はお母様一筋ですのであれですが、王室には側室の制度があります」
「それを利用されてはどうでしょう?」
すると姫様は侍女と何やら話をしだし、しばらくして鎧を着た兵士が現れた。
「彼は侍女の間で人気の高い兵士でございます」
「初めまして勇者様」
「ジョッグと申します」
「私は姫様の為、勇者様の為に尻穴を捧げる所存であります」
要らねーよ。
えっ、何この状況……。
とりあえず断らなければ……。
「あ、あの……、美男子は苦手で……」
俺がそう言うとジョッグは叫び、涙を流し地面を叩き始めた。
「くそー、俺が美男子に産まれなければ勇者様の側室になれたのに……」
えっと……、なんかゴメン。
「そうですか」
姫様はそう言うと、またもや侍女と話をしだし、そして料理長のカブッチャーが現れた。
「彼は侍女の中でお顔の評判が悪いそうです」
えっ、なんか普通に可愛そう……。
やめたげて姫様、本人の前でそんな事言うの。
「姫様の為、勇者様の為、私カブッチャー、尻穴を捧げる所存であります」
いや、お前ら自分の尻穴くらい大事にしろ。
簡単に捧げないで。
「えっと、すみません嘘をつきました」
「女性の方が好きです」
するとカブッチャーは涙を流し地面を叩き始めた。
「くっ、私が男に産まれなければ……」
うん、ごめんねカブッチャー。
カブッチャー達が帰り、部屋では姫様と二人きり。
「まあ、勇者様ったら私に嘘を吐いたのですね」
「コレはお仕置きが必要です」
「えいっ」
そういうと姫様は俺を軽く小突いた。
その瞬間、体中に鳥肌が立った。
やはり三次元は苦手だ。
魂に刻まれるレベルで苦手だ。
「フフフ、私も嘘をつきました」
「本当は怒ってなどいません」
「勇者様と一緒だと楽しくて幸せですわ」
笑顔の眩しい姫様を俺は直視できないでいた。
一方その頃、タッティーナの家では……。
ルリ姉が魔水晶をリュック一杯に持ち帰っていた。
「ただいま、あれ、タッティーナは?」
第36話 完
第37話へ続く。




