エピローグ②
翌月、大量の有休を得た成瀬は最初に達也の家を訪れていた。
家なら何か冤罪だという証拠がある筈……。
そう考えていたが、いざ達也の家を前にしたら怖くて一歩も動けないでいた。
そんな成瀬に家から出てきた達也の母が気付く。
そして成瀬は勇気を出し、達也の冤罪を晴らしに来た事を伝えた。
「すみません、それでは達也君の部屋、調べさせて貰いますね」
「ええ、よろしくお願いします」
先ずはパソコンから……。
って、何だこれ。
検索履歴が二次元のエロ画像ばかりじゃねーか。
成瀬は検索履歴を辿ってもロクな情報を得られ無かった。
おまけに室内を物色しても、出て来るのはエロ本ばかり……。
完全にアテが外れ、成瀬は項垂れてしまう。
「警察も室内を調べたのかな?」
「漫画の中にはグロい奴も何冊かある」
「これだと通り魔をする奴だと思われても仕方がないのかな……」
何冊かグロい漫画を読みながら、過去の達也を思い出す。
部活で上手く行かず落ち込む俺をあいつは慰めてくれた。
こういった漫画を読むからって、あいつが通り魔をする何て、絶対に考えられないよ。
成瀬は立ち上がり、達也の母から詳しい話しを聞き出した。
そして警察署に向かう成瀬、パンツ一丁の達也を捕まえたお巡りさんに話しを聞きにきたのだ。
(にしても、雪子が着てパンツ一丁で家を飛び出す何て……)
そんな事を考えながら待つ事、数分。
達也を補導した警察官がやって来た。
「あの……、加藤達也って人物をご存知ですか?」
「ええ、過去に話しを聞いて、お家までお連れした事があります」
パンツ一丁の所を補導したって話さないんだ。
達也を思っての事かな?
「それでその……、加藤達也について何ですが、本当に通り魔をやる様な奴に見えましたか?」
彼は黙り込み、しばらくして「見えなかったです」と言ってくれた。
母親に叱られ、怯えて警察官の制服を掴み離さなかった達也。
自暴自棄になって……、てのも考えられるが、やはり通り魔を起こす様な奴じゃない。
俺は警察官から俺と同じ事を聞いて回っているという記者の連絡先を聞いて、喫茶店で待ち合わせる事に……。
「いや〜、お待たせしてしまい申し訳ありません」
そう言って現れた三十代後半の男性。
彼は俺に幾つか質問をして、調べた事を教えてくれた。
「ちょっとこの事件、不自然な点が多いんですよ」
そう言って彼は達也のリュックに入っていた物について語る。
「お母さんの通帳、これは何の為に持って来たんですかね?」
真昼間から包丁を持って通り魔事件を起こした所で逃げ切れる事は不可能に近い。
仮に逃亡の為に通帳を持って来たのだとしたら、リュックの中に現金が入っていないのは可笑しい事になる。
何故なら人を刺してから、お金を下ろしに行かなくてはいけないからだ。
「そんな事ってあります?」
確かに、突発的なら通帳何て持っていかないだろうし、計画的なら先にお金を下ろしてから犯行に及ぶ筈だ。
「まあ、お金を下ろしに向かう途中に警察に職質を受けた線もあります」
「只、彼の家と職質を受けた場所には銀行が幾つかありましてね、ちょっと疑問に思ったんです」
「それだけじゃありません、彼のリュックの中からライターも見つかりましてね」
「はあ、それが何か?」
「彼は煙草を吸わないんですよ」
「なのに何故、ライターが入っていたんですかね?」
何故だろう?
達也は一体、何をしたかったんだ?
記者の話しは為になったが、正直何が何だか分からなくはなった。
只、最後の記者の言葉に俺の心は熱くなっていた。
「どうしてそこまで達也の為に動くんです?」
何の接点も無い達也にどうしてそこまで……。
俺の問いに記者は笑顔で答えてくれた。
「彼のお母さんが泣いていたからです」
「えっ?」
「あの涙を見て、本当に彼は悪人だったのか知りたくなりましてね」
「もしも違うのであれば、お母さんも、そして死んだ彼も救う事が出来る」
「素晴らしい事じゃ無いですか」
そう言った彼を見て、俺も達也を救いたいとそう強く思った。
次話に続く。




