第30話[ジョブチェンジ]
セツコと仲直りした俺は二人でルリ姉の試験合格祝いのプレゼントについて相談していた。
それにしても金が無い。
「セッちゃん、お店で小麦粉とか分けてもらえないかな?」
「えっ、でも……」
「こじきって言うから……」
うっ、さっき謝ったのにまだ気にしてたんだ……。
あの時は嫉妬と妬みでどうかしてたわ。
今でも本当に反省しているよ。
もっと真剣に謝ろうと思い口を開いた次の瞬間。
「君達お困りかな?」
「ひゃい」
フードと仮面を被った怪しいローブ姿の男に声をかけられて、思わず変な声が出てしまった。
このクソ野郎、一体誰なんだ?
「私の相談に乗ってくれると君達の悩みを私が解決してあげるよ」
俺は無視をし、セツコに対応を任せた。
全く知らない相手に饒舌で喋れると思うなよ仮面野郎。
こっちはなぁ、近所のおばちゃんにさえ、まともに会話できないんだからな。
元引き篭もりをナメんなよ。
そんな事を考えている間、奴は自分の悩みを一人語り始めた。
「私は新たな人生を歩もうと思っていてね」
「今の職業から魔物を倒す英雄へとジョブチェンジィしたくてねぇ」
「勇者タッティーナ、英雄セツコォ、私に強くなるコツを教えてくれないかい?」
そう仮面野郎が言うと風が吹き出してフードが取れ、ツルピカな頭がこんにちはしてきた。
何だ床屋の親父か。
床屋の親父は無言でフードを被り直し頭を隠した。
「いいよ、仮面さんついて来て」
おいおいセツコ、コイツは仮面さんじゃなく、床屋の親父さんだぞ。
無口で髪を切り続ける床屋の親父さんなんだぞ。
仮面を被り別人になりきる床屋の親父と俺はセツコの案内の元、大岩の前に来ていた。
「いい?」
「見てて」
「フンン」
セツコは大岩の中心を殴り、俺達に大岩を砕いて見せた。
「真ん中辺りを殴ると簡単に割れるからその事を頭に入れてトレーニングするといいよ」
嘘つけ。
それお前だけだからな。
お前中心に語るんじゃないの。
全く、こんなの誰がやるんだよ。
「おお、素晴らしいぃ」
「とても参考になったよ」
えっ?
やるの?
何かよく分からんが床屋の親父からお金を貰い、俺達はルリ姉にケーキを作ってあげた。
「二人がこれを?」
「ありがとう、二人共大好き」
「えへへ、セッちゃんもルリ姉ちゃん大好き」
いや、ケーキは殆ど俺が作ったからね。
セツコはつまみ食い専門だったからね。
生クリームは力任せに掻き混ぜ台無しにするし……。
まあ、セツコのアドバイスのお陰で床屋の親父からお金が貰えた訳だから文句はないけど。
セツコは資金担当、俺は調理担当でバランスは取れたかな?
後日、床屋の親父は商売道具である右手を負傷し、しばらく休みますという貼り紙が店頭に張り出してあった。
親父……、岩殴ったな……。
第30話 完




