第16話[思い出]
フードを外して露わになった魔王の顔。
頬は痩せコケ、首は細く、魔力枯渇病かと尋ねてしまう程、魔王の体は弱っている感じがした。
「魔力枯渇病では無いよ」
「それに近いかも知れないがね」
そう言うと魔王は自分の生い立ちについて語り始めるのだった。
先代の魔王が倒されて、しばらくした後に現魔王が生まれる事になる。
彼が生まれた時には先代の魔王が生み出した魔物達は全て死に絶えていた。
「さて、何をするか……」
広いお城に一人だけ。
魔王は特にする事も無く、お城にある本を読み、知識を得る事に……。
そして数年の月日が流れ、魔王は玉座に座り、考え込んでいた。
「僕がこの世界に誕生したのは勇者に殺される為……」
歴代の魔王達も勇者に殺されている。
恐らく僕も勇者に殺されるのが定めなのだろう。
さてどうしたものか?
勇者が現れるまで、人間界を支配しようと頑張るか?
いや正直、生き物の命を奪いたくは無い。
それに人間界を支配しても、やる事は無いだろうし、僕は魔界だけで充分だ。
ならどうする?
「そうだ、子供を作ろう」
ずっと一人で寂しかった。
それに魔王の性なのか、どうしても魔物達をこの世に誕生させたかった。
この世界に僕の生きた証を残したかったんだ。
最初に誕生した魔物は三人。
ザネンとネクロマンサー、そしてティギルだった。
特にティギルは僕の血を色濃く受け継いだのか、他の二人に比べ力はとても強かった。
そんなティギルも当時の僕には遥かに及ばず、喧嘩を止めた際に軽く掴んだだけで、痛くて泣いてしまう程だった。
(僕が止めると子供達を傷つけてしまう)
それ以来、彼らの喧嘩を止める際には体を張って止める様にした。
そして次にキョウギクが生まれた。
彼は自分の姿に強いコンプレックスを抱いており、日々荒れていた。
そして何百年の月日が経ち、キョウギクはネクロマンサーと喧嘩をした。
それからネクロマンサーに敗れた彼は人間界から帰って来ず。
僕はキョウギクを心配し、心を痛めながら人間界に迎えに行ったのだが……。
彼は変わっていた。
そして木陰からキョウギクの様子を見ていた僕は嬉しく思ったんだ。
だって、人間と過ごし、キョウギクは幸せそうに笑っていたからね。
魔王城だけが全てじゃ無い。
寂しいけど、キョウギクには人間界が合っていたのかも知れない。
僕はそう思い、彼に声をかける事無く、魔界へと帰って行った。
そしてキョウギクが生まれてしばらくした後にシグラが生まれる。
彼は凄く甘えん坊でね。
何をするにも僕にくっ付いて離れる事をしなかった。
そんな彼が僕を守る為に人間界に降りて頑張ってくれている。
君達人間には迷惑な話しだけど、僕はそれが嬉しかったんだ。
そしてシグラが生まれ数年後にルビックが生まれた。
彼、彼女と言った方が良いのかな?
兎に角、ルビックには性別は無かった。
そして、兄弟の中で一番の悪戯好きで、かなり世話のかかる子供だったのを覚えている。
何せ、ティギルが引き篭もる原因だったのは、あの子がティギルのオヤツを食べたのが原因だからね。
本当に手のかかる子供だったよ。
そしてルビックが生まれ数ヶ月後にシャルディとキャルディが生まれた。
彼女達は大人しく、手のかからない子供達だった。
だが、逆に血が薄かったのか、他の幹部達に比べ、力は弱く、二人の側に居ないと心配で仕方が無かったよ。
最後に二代目ネクロマンサーの話しをしよう。
彼には申し訳ない事をしたと思っていた。
彼もまた僕を許していないだろうと……。
だけど、彼はネクロマンサーの遺体を操り、幹部達にネクロマンサーが生きている様に思わせてくれた。
他にも勇者達について、死体の鳩を飛ばし報告もしてくれたんだ。
彼の情報のお陰で君が弱い事も知っていた。
まあ、幹部達にはそんな事を話さなかったけどね。
テレパシーを使えばいいのだが、彼はそれを使わなかった。
僕と心を通わせるのが嫌なのかな?
そう思ったりもした物さ……。
その話しを聞いてタッティーナは思った事を口にした。
「只、顔を見て話したかっただけじゃ無いのか?」
「死体を通じて表情を見たり出来ないの?」
「そうか、そういう事だったのか」
一人で笑う魔王。
勇者の言う通り、僕の顔を見て話しがしたかったのか。
「フフフ、ありがとう」
魔王はそう言うと話しを続けた。
ネクロマンサーがテレパシーを送って来た時は驚いたさ。
魔王の血が流れた子供に勇者達が殺されちゃうってね。
僕はネクロマンサーの操る鳩の死体と視界と聴覚をリンクさせ、状況を伺いながら、ルビックに頼み、君達の所へ瞬間移動した。
そして君達は少女を救って見せた。
命を奪うだけの僕と違ってね。
これまでの人生。
幹部達の面倒を見て来て、大変な事は多々あったが、それ以上に幸せな事も多かった。
魔王として、人間界に血を撒いて回った時に生まれた魔物達。
スライムやゴブリン、そういった魔物達も直接育ててはいないものの、愛している。
だからこそ勇者、君がこの世に産まれて来た時は震えたよ。
そう言って魔王は俺が産まれた後の話しをするのだった。
第16話 完




