第11話[村の少年]
人間界に行きたいと呟くネクロマンサーを抱え、魔王は人間界に降りていた。
国や街に行けば人間達が自分に襲いかかって来る。
だから、誰も来そうにない見晴らしの良い丘でネクロマンサーを座らせるのだった。
「ごめんね、出来るだけ人とは関わりたく無いんだ」
「謝らないで下さい」
「僕は幸せですから」
「魔王様と一緒に人間界の景色を見れて、本当に良かった」
風がネクロマンサーにあたり、毛で隠れていた両目が露わになる。
そんな彼の目を見て、僕は絶句してしまった。
もう、目を開ける事が出来ないんだね。
それなのに一緒に景色が見られて幸せか……。
「そうだね、また一緒に人間界の景色を見よう」
「今度は何が見たい?」
「人が居ない所なら、何処へでも連れて行ってあげるよ」
「ありがとうございます」
「でも、もういいです」
「ネクロマンサー?」
「最後に二ついいですか?」
「何を言っている」
「まだ……、まだ生きていけるさ」
「そうだ、僕の魔力を分けよう、それなら……」
「ありがとうございます」
「でも大丈夫です」
「魔王様の魔力を貰って治るのなら初めからそうしている筈です」
「それをしなかったのは、僕に魔力を与えても意味がないから……、そうですよね?」
僕は何も答える事が出来なかった。
魔力枯渇病に他者から魔力を与えられても意味がない。
寧ろ増えた分、その反動で消費が速くなり、死が近づくだけなのだ。
それを知っていて僕は何て事を……。
僕が悔やんでいる間にネクロマンサーは話しを進める。
彼の望みは二つ、自分の死を兄妹達に知らせないでくれと、もう一つは人間を救って欲しいというものだった。
「お願いします魔王様」
彼はそう言い残すと僕の胸で安らかに眠っていった。
「ネクロマンサー、君の血を貰うよ」
僕じゃ君の二つ目の願いを叶える事は無理だ。
ふとネクロマンサーの言葉を思い出す。
「魔王様の様に優しい人間も居るか……、それは違うよ」
「ネクロマンサー、君の様に優しい人間も居る、それが正しい言葉さ」
僕は彼の遺体を自室のベッドに寝かせ、覚悟を決める。
深くフードを被り、魔王と気付かれない様に行動しなければ……。
人が多い国や街は駄目だ。
人気が少ない村にしよう。
そうして辿り着いた場所が、君達がタイシと呼ぶ人間の村だった。
村は貧しく、人も歩いていない。
家の中から聞こえて来る咳の音、この村は疫病にかかっていた。
その村で出会った一人の少年。
僕は彼に問うた。
生きたいかと、すると彼はこう答えた。
「僕はいいです」
「だから、この村の人達を救って下さい」
その言葉を聞いて、僕はネクロマンサーの血を引き継ぐのは彼しか居ないと思った。
彼ならネクロマンサーの願いを叶えてくれる。
ネクロマンサーの様に他人を気遣える彼なら……。
そう思ったんだ。
そう魔王は話し終えるのだった。
第11話 完




