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第10話[病]

ネクロマンサーは人間界に降りては貧しい人達を救っていた。

と言っても、食べ物を与えるだけで、他に出来る事は無い。

雨風を凌げる場所を提供するだとか、薬を与え病を治すといった事はネクロマンサーは出来なかったのだ。

そんな彼は子供達の遺体を集め、魔王城によく持ち帰っていた。


「何をしているんだい?」


「あっ、魔王様」

「この子達を遊ばせているんです」


ネクロマンサーには不思議な力があった。

能力を使い、死体を自在に操れるだけじゃ無く、まるで生き返ったかの様に死体自らが考え、行動し、喋らせる事が出来る能力。

彼はその能力を使い、生きている時に出来なかった事をさせていたのだ。


「貧しい子にはお腹一杯食べさせて、病気で走り回れなかった子には気が済むまで走り回って貰う」

「そうして満足したら神様の元へ行って貰うんです」


「何故そんな事をするんだい?」


「そうですね、この世界に産まれて来て良かったと思って欲しいからですかね」


ネクロマンサーはそう言うと僕に笑顔を向けた。


「しかし、走り回るのはいいが、あの子達に食欲はあるのかい?」

「死んでいるんだろう?」


私の問いにネクロマンサーは「ありますよ」と答えた。


「まるで生き返ったかの様に過ごすんです」

「無いのは体温だけ、あの子達は死体ですから」


「そうか、それで病気にはかかるのか?」


「どうですかね、ちょっと分からないです」

「只、病気で亡くなった子は治った状態で動いていますけど……」


まあ、治った状態じゃ無ければ、あんなに走り回る事は出来ないだろう。

そんな事を考えていると、小さな女の子が花冠を作り、ネクロマンサーの元へやって来た。


「ネクロマンサー様にプレゼント」


「うわ、くれるの?」


「うん」


「ありがとう、でもネクロマンサー様って言うのは止めて欲しいな〜」


「え〜、駄目だよ」

「ネクロマンサー様は私達の救世主様なんだから」

「フフフ、私大きくなったらネクロマンサー様のお嫁さんになるね」


その女の子の言葉にネクロマンサーは困った表情を浮かべていた。

彼女は死体。

どんなに生きている時と変わらなくても、彼女は死体なのだ、成長する事など無い。


「そろそろご飯にしようか?」


「うん」


「それじゃあ魔王様、失礼します」


「魔王様バイバイ」


そう言うとネクロマンサーは他の子達を呼びに向かっていった。


「いいんですか魔王様?」

「ネクロマンサーを放って置いて」


「ザネンか、前にも言った様に僕は放任主義なんだ」

「ネクロマンサーがしたい様にやれば良いと思っているよ」


そう僕は子供達のする事に口出しはしない。

兄妹喧嘩には口は出すけどね。

そんなある日の事、彼は子供の遺体を抱え、僕の部屋を訪れていた。


「魔王様、子供達が動かなくなりました」


朝起きたら子供達が倒れ、動かなくなっていたらしい。

そして、能力を使っても死体を操る事が出来なくなってしまった事を僕に泣きながら話していた。

僕はネクロマンサーを部屋で待機させ、魔王城にある書物を読み漁った。

そして分かったのが、魔力枯渇病という病。

魔物が稀にかかる病で魔力が底を尽きると死んでしまうらしい。

僕は何とかならないかと城にある書物を読み漁る。

だが、解決策は見つからず、部屋で弱っていくネクロマンサーを見守る日々を過ごしていった。


「すまない、君を治す手段がまだ見つからないんだ」


「えへへ、何を言うんです魔王様、僕は幸せですよ」

「こうして魔王様が側に居てくれるんですから」


この時、ネクロマンサーはベッドから起き上がる事が出来ないでいた。

そんな中、彼は言う。

また人間に会いたいなと……。


「どうしてそんなに人間に会いたがる」

「書物でしか読んだ事ないが、人間は残酷で残忍なんだろ?」


「そんな事ないですよ」


そう言うとネクロマンサーは語り出した。

ティギルの様に臆病な人間も居れば、ザネンの様に常に見下した物言いをする人間も居る。

キョウギクの様に残酷な人間も居れば、シグラの様に甘えん坊な人間も居る。

シャルディやキャルディの様に内気な人間も居て、何より魔王様の様に優しい人間も居る。


「僕はそれら全部含めて人間が大好きなんだ」


そう嬉しそうに語っていたネクロマンサーも、数日後には目を開けるのも困難になる程弱っていくのだった。


第10話 完

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