第7話[覚醒]
時は少し遡り、タッティーナとソルティナがティギルと戦っていた時の事。
魔王は幹部達にテレパシーを送っていた。
「ルビック、このままじゃ皆んな殺されてしまう」
「どうか勇者に力を貸してやってはくれないか」
「魔王様、何を……」
時間が無い。
魔王はそう思い、ルビックを無視して話しを先に進めて行く。
「キョウギク、少しの間でいい、ティギルを止めて置いて欲しい」
「なっ、そんな事出来る訳……」
「出来るさ、人間を守る為に強くなった君なら必ず出来る」
「僕はそう信じているよ」
魔王様が俺を信じてくれている。
親不孝で魔王様を悲しませてきた俺を……。
それだけで何だか力が湧いてくる様だ。
「分かりました」
「俺が何としてでも時間を稼ぎます」
「それで時間を稼いでどうするんです?」
「ザネンの力を借りる」
魔王は幹部達に作戦を説明し、そしてその作戦を実行する為に幹部達は動き出した。
一直線に向かって来るティギルにルリが魔法をかけ攻める。
サナも錬金術の道具を使い応戦するが二人の攻撃はティギルに通用する事は無かった。
そんな中、キョウギクがティギルの前に現れる。
剣でティギルを斬りつける中、ティギルの反撃を喰らい血を吐いてしまう。
(まだだ、再生能力をフルに活かせ)
殴られても直ぐに治療し、ティギルへの攻撃を止めないキョウギク。
彼の目は再生能力で回復し、やがて目を開けて戦う事に……。
今まで感覚を頼りに戦って来た。
音や気配、それらを感じ取り、何百年も魔物と戦い人を守ってきた。
それが目が見える様になり、キョウギクの強さは格段に上がっていく。
それを実感しながらも、ティギルの強さに圧倒され、勝ちに回る事はしなかった。
どんなに足掻いても、ティギルを倒す事は出来ないんだ。
なら、時間を稼ぐ事に集中しろ。
相手が隙を見せても、狙う事はしない。
相手の隙を突いて、無防備になった所を狙われては敵わないからな。
そう思い、ティギルとキョウギクが戦っている間にルビックは魔王の作戦をタッティーナに説明していた。
「ザネンを元に戻せって?」
「ああ、お前の肉体にザネンを憑依させる」
「ザネンなら勇者の力を最大限に引き出せるだろうと魔王様は言っていた」
なっ、だとしても冗談じゃない。
ザネンの力を借りて、ティギルに勝てたとしても、俺が奴に操られたんじゃ意味が無い。
俺はゾルドワーク国の王様の事を思い出し、その事をルビックに話した。
「そこは魔王様を信じてくれとしか言えない」
「魔王様は凍ったザネンに勇者に力を貸す様に話していると仰っていた」
そんな事を言われても信じられる訳、無いだろう。
「頼むよ勇者、魔王様は僕達が殺されるのを恐れている」
「だから……、お願いだ」
くそ、何だよ。
家族思いの魔王とか訳わかんないよ。
キョウギクの時間稼ぎにも限度がある。
早急に答えを出さなければいけない、この状況で俺は叫んでいた。
「ルリ姉、ザネンの氷を解いてくれ」
「えっ、でも……」
「早くしてくれ」
「分かったわ」
ルリ姉がザネンにかけた魔法を解く。
氷状態から解放されたザネンは俺の口から体内に入り、体に憑依していく。
「貴様の力、最大限まで引き出してやる」
「だからティギルを……、殺さないでくれ」
「それが魔王様の望みだ」
脳へと直接、語りかけられたかの様に感じる声、これはザネンの言葉か?
そんな中、魔王の声が聞こえてきた。
「ルビックの話しを信じてくれてありがとう」
「ザネンが力を最大限に引き出した今の君ならティギルを止められるだろう」
「お願いだ、ティギルは本当は良い子なんだ」
あれが良い子?
冗談だろ。
「冗談何かじゃ無いさ、あの子は強大な力を上手く扱え無いだけ、破壊や怒りに身を任せ、自分の本当の心には蓋をしているだけなのさ」
うっ、何これ?
自分の思った言葉も相手に伝わっちゃうの?
何かやり辛い。
「チッ、強く念じ過ぎるから無意識にテレパシーで魔王様に送られるんだ」
「そんな強く思わなければテレパシーとして魔王様に送られる事は無い」
そんな事言ったって難しいよ。
それに何で魔王とテレパシーで会話出来るんだ?
初めからルビックに語らせずに俺に直でテレパシーを送れば良かったんじゃ?
「ザネンと一体化したお陰でこうして喋れる様になったんだ」
「それよりホラッ、キョウギクを助けないと」
ああ、そうだった……、って何だこの湧いて来る力は?
まるで自分の体じゃ無いみたいに体は軽く、一瞬でティギルの前まで向かう事が出来た。
俺の力を感じ取ったのか、奴はキョウギクとの戦闘を止めて、俺に殴りかかって来た。
まるでスローモーションかの様にティギルのパンチは遅く、俺は海賊刀を捨て、奴めがけ殴りかかった。
吹き飛ぶティギル。
俺はその間に、カッコつけながら、精霊の雫をルリ姉に投げるのだった。
「ルリ姉、これを早くセッちゃんとジャガルに飲ませるんだ」
第7話 完




