最終章第1話[幻]
俺達は魔王城の扉を開けて、中に入り、どデカい広間に来ていた。
そこには魔王軍幹部が勢揃いしており、この場で決着をつける為、戦う事に。
「ジャガル、待っていたぞ」
「キョウギク、前の戦いでは負けましたが、今度は僕が勝たせて貰います」
そう言って二人が武器を持ち、走り出す。
だが……。
「邪魔だ退いてろ」
シグラがキョウギクを突き飛ばし、懐に手を入れた。
「くっ、邪魔をするな」
そう言って今度はキョウギクがシグラを突き飛ばし、シグラと揉め始めた。
えっ、こんな大切な場面で仲間割れ?
そう思っていると、今度はザネンが動き出す。
そんなザネンのモヤみたいな尻尾をキョウギクとシグラが掴み、引き摺るとザネンは二人に激怒し、三人が文句を言い合い、揉め始める。
(しめた、これで一気に三体も片付けられる)
俺と同じ事を思っていたのか、ジャガルがザネン達めがけ突っ込んで行く。
(よし、ナイスだジャガル)
そう思ったのだが……。
「うおりゃ」
そう叫び、セツコがジャガルの背中を蹴った。
勢いよく地面に顔をぶつけるジャガル。
鼻血を垂らしながら、ゆっくりと起き上がり、セツコを睨んだ。
「チッ、生きてたか」
いや、生きてたかじゃ無いよ、此処は共闘して戦う所だよ。
「前々から馬鹿だと思っていたが、此処までとは……、貴様から先に行け、また背中を蹴られ、邪魔をされるのは嫌なのでな」
「とか言って、セッちゃんの背中、蹴るつもりでしょ?」
「蹴るか馬鹿」
「まあ、いいや」
「セッちゃんが三人まとめてやっつけてあげるから、君はそこで休んでいなよ」
そう挑発してセツコが走り出した瞬間、ジャガルがセツコの背中めがけ、飛び掛かった。
「馬鹿め、死ねぇい」
がっ、セツコはそれを軽く交わした。
「プププ、来ると分かれば簡単に交わせるよ」
「くっ、もう一度だ」
「ヤダよお馬鹿さん」
向こうは向こうでチームワーク悪いし、こっちはこっちでチームワーク最悪だ。
魔王を目前とした最終決戦なのに、最低な戦いだな。
まあ、いいや。
俺は俺で出来る事をしよう。
そうだな、倒すのはシャルディかキャルディ辺りかな?
よし、キャルディにしよう。
あいつなら、何か捻くれてそうだし、戦いやすい筈。
そう思い、ルリ姉達がネクロマンサーが蘇らせた魔物とルビック、シャルディを相手にしている中、俺は海賊刀を振り上げて、キャルディに向かって突っ込んで行った。
「フッ、馬鹿にしないでよ」
「あんたの苦手な物、見させて貰うわ」
苦手な物?
何言ってんだコイツ?
そう思いながらも、キャルディに向かって突っ込んで行くと……。
「キャッ、タッティーナ君、可愛い」
いつの間にか水着姿の美少女に囲まれていた。
「本当にこんなのが勇者の苦手な物の訳?」
「まあいいわ、美少女に囲まれて自殺しなさい」
「お姉さん達と遊ばない?」
ブルンと震えるオッパ◯。
ヤバい、こんなに近づかれると鳥肌が、鳥肌が……。
立たない。
美少女に触れられても、全然平気だ。
何でだ?
一瞬そう思ったが、単純にこれが幻術だと分かっているから、体が反応しないのだと理解した。
大体魔王城に水着姿の美少女が居る訳無いもんな。
「なっ、何鼻の下伸ばしてんのよ」
「まさか……、私を騙した訳?」
「この変態」
「えっ?」
「苦手だと言うから、ドエロイ女の幻を見せてやったのに、最低よ」
いや、言って無いけど。
ふと、視線を感じ、俺は辺りを見回した。
「私の妹によくもそんな汚らしい事を、最低ねあんたは」
そうシャルディが叫ぶと仲間の女性陣達からもブーイングの嵐が巻き起こった。
「へぇ、タッくんさんは私達が命がけで戦っている中、そんな楽しい思いをしていたんですか」
「現実じゃ、誰も相手に出来ないから」
サナ、言葉がキツいよ。
「こんなお兄ちゃん、要らないよ」
ルタ、冗談でもそんな事、言っちゃ駄目だぞ。
いや、今回だけは冗談でも許すから、後からハッキリ冗談だって言ってね。
「見損ないました」
「勇者さんは私達をいつもエロい目で見ていたのですね」
いや、見てないよ。
ソルティナさん、変な事を言うのは止めてよ。
「最っ低」
いつも優しいルリ姉は何処に行ったの?
そんなキツい目をしちゃ駄目だよ。
「タッくん、後でお仕置きだね」
セッちゃんが一番怖い。
女性陣から責められている間、キャルディは更に奥深く、タッティーナの心の中を覗いていく。
最大級のトラウマを引き出して、幻だと気づかれない程の幻術をかけるんだ。
そう思い、覗いていると……。
(見つけた)
タッティーナの中に居る一人の女性。
彼女がタッティーナの弱点だと知り、キャルディはタッティーナに気付かれず、幻術をかけていく……。
「いや、皆んな誤解だって、俺は何も……」
「へぇ〜、タッくんはいつもそんなエロい妄想をしているの?」
心臓が口から飛び出そうな位、驚いた。
そんな、どうして、思考がまとまらない。
全身が震え、俺は恐る恐る聞き覚えのある声がする方へ振り向いた。
「本当に最低だね」
セッちゃん、どうして居るの?
急な吐き気を堪え、俺は自宅の部屋で初恋相手のセッちゃんと対面していた。
第1話 完




