第57話[ロキの過去]
斬り落とした右腕に布を巻き、ロキは意識を朦朧とさせながら、街外れにある焼けた実家に帰っていた。
右腕を切断したのは勇者達に覚悟を伝える為、彼はこの思い出の詰まった場所で一人、死ぬ気でいた。
街で一番の踊り子の母を持ち、街で一番の画家の父を持つロキ。
美男美女の二人から産まれて来る子供はさぞかし可愛い子供なんだろうと街の人達は期待していた。
だが、産まれて来たロキを見るや、街の人々は口を揃えてこう言った。
「醜い子」
あの二人から産まれて来たとは思えない容姿のロキを街の人間はこぞって馬鹿にした。
更には母親の不倫話しまで出る始末。
画家は両親から妻と子供を捨てる様に言われ、踊り子は恥晒しと両親から見放される。
そんな生活を送って来た画家はとうとう耐えきれず、街の中心地に向かい、叫んでいた。
「誰が何と言おうとロキは私の子だ」
「私の妻と子供を馬鹿にする奴は許さんぞ」
画家に向かって酒瓶が投げられていく。
それでも彼は立ち向かった。
愛する妻と子供の為に……。
「あなた……、ごめんなさい……」
「君が謝る必要はないさ、悪いのは街の人達、ロキはこんなにも可愛い子供なのに……」
涙を浮かべながら、父親はロキに大きな指を向ける。
するとロキは小さな手でその指を握ると幸せそうに笑っていた。
「なあ、考えたんだけど街外れに家を建てないか?」
「そこで三人で穏やかに暮らすんだ」
石で作るには費用がかかる。
だから、木で家を建てるんだ。
貯金なら沢山ある。
これまで多くの絵を売ってきた父と多くの会場で踊りを披露してきた妻。
二人の貯金を合わせれば、ロキが一生食べ物に困らない生活を送る事が出来る。
そう話す夫に妻は「そうね」と言うと街外れに家を建てる事を決意するのだった。
街外れに家を建て、数年後。
ロキは成長し歩ける様になっていた。
赤ん坊の頃から泣き声をあげる事が無かったロキ。
その時から何となく理解していたが、ロキは言葉が喋れないと、この時両親は改めて思った。
「おっ、ロキは絵に興味があるのか?」
木造の壁に絵を描く父を真似、ロキも手にペンキをつけて壁にペタペタと手形をつけ笑う。
「あら、ロキは踊りにも興味があるのね」
母と一緒にダンスを踊り、幸せそうに笑うロキ。
優しい両親と二人からの愛を受け、ロキは幸せな日々を過ごしていた。
だが……。
「見ろよコイツの顔、化け物だぜ」
歩ける様になったせいか、ロキは街に一人で向かってしまい皆んなから囲まれる事になる。
「まあ、何て醜い顔なのかしら」
「この国に相応しく無いんだよ」
子供から大人まで、彼に暴言を浴びせる。
酒瓶の割れる音に驚き、涙を流すロキを見て、街の人達は指を指して笑う。
「コイツ、喋られないのか?」
「泣いているかどうかも分からないじゃないか」
街の人達の笑い声が辺りを包む中、ロキは大好きな父の声が聞こえ、顔を上げて辺りを捜した。
「ロキ」
そう叫び、ロキを強く抱きしめる父にロキは涙を流し、しがみつく。
「行くぞロキ」
「おい、待てよ」
「化け物を街に連れて来てしまい、ごめんなさいは?」
「この子は化け物何かじゃない」
「私の子だ」
それを聞いて街の人達は更に笑う。
その笑い声の中から時折聞こえて来る「化け物」と「醜い」という言葉、ロキは父親に抱きしめられながら、その言葉をしっかりと聞き、覚えていた。
それから更に月日が経ち、ロキの運命を変える夜が訪れる事に……。
深夜、室内に忍び込む数人の男達。
その物音に気付いたロキはベッドから起き上がるとランプを持ち、リビングへと向かって行く。
お母さんが何かしているのだろう。
そう勘違いをしたロキはランプを男達にかざしてしまった。
ランプに照らされたロキの顔を見て、悲鳴を上げる男達。
それを聞いて、父親は目を覚まし、リビングへと向かっていく。
「貴様ら何をしている」
「おい、バレちまったぞ」
「チッ、仕方ない、殺すか」
強盗達はロキの目の前で父親を殺し、そして家に火をつけた。
「オラっ、持てるだけ金を持て」
動かなくなった父の体を揺さぶるロキ。
画家の家であった為、火の回りがはやい。
どうすれば良いのか分からないロキを母親が抱き上げた。
辺り一面、炎に包まれる中、母親はロキを抱え外に向かって走る。
炎が母親の髪を焼き、皮膚を溶かす。
やがて全身火だるまになりながら、母親は玄関から我が子を外へ投げ捨て、その場で倒れてしまう。
炎に包まれる我が子を見つめながら、彼女は最後の言葉を残し息絶えていく。
「お願い生きて」
第57話 完




