第55話[タッくんを守らなきゃ]
何処にセツコが居るのかも分からない程、煙は室内に充満していた。
爆撃で窓などが割れているにも関わらず、煙が晴れる事はない。
このままじゃ、セツコが殺されてしまう。
聴覚を失い、視界も失っているこの状況でセツコに勝ち目何て無い。
こんな絶望的状況の中、俺はある打開策を思いついた。
そうだ、ピヨならこの煙を何とかしてくれるんじゃないか……。
まだ成鳥とは言えないが、ピヨも成長して大きくなっている。
羽を羽ばたかせて、その風を利用し煙を晴らす事が出来れば……。
頼むピヨ……、俺に力を貸してくれ。
魔力を使い、ピヨを召喚する。
そして召喚したばかりのピヨに煙を晴らす様に指示を出した。
俺の指示通りに羽を羽ばたかせるピヨ。
すると煙は少しだけ晴れて、仮面を被った殺人鬼の姿を捉える事が出来た。
セツコの拳が奴の顔面に直撃する。
そこから繰り広げられるセツコの連打。
奴の仮面は割れ、体を壁に強く打ち付ける。
もう、動けない程、ダメージを受けている筈なのに、奴は顔を隠して、その場から逃げて行った。
「セツコのパンチをあれだけ喰らってまだ動ける何て、化け物かよ」
それにしても奴の素顔……。
一瞬だけ見た奴の顔は焼け爛れていて、本人もその事を気にしている様だった。
「タッくん、ルリ姉ちゃんの所に行こう」
セツコが何か喋っている。
何を言っているのか分からないまま、俺はセツコにおんぶされた。
本来なら赤い発疹や痒みなどの症状が出るのだが、痛みと疲労感で症状が出ているのか分からない程、俺の体はボロボロだった。
「セッちゃんが必ずタッくんを守るから」
ああ、何だか疲れたな。
体も寒くなってきた。
後、眠く……。
「よくも我が友、ロキを……」
「我が怒りの曲を聴けい」
時計塔から流れる曲が激しく荒々しい曲へと変わる。
すると街で踊っている人の動きも激しくなり、セツコの行く道を妨害する。
それでも歩みを止めず、ルリの所に走るセツコだったが、後少しの所で街の人とぶつかり、タッティーナを地面へ落としてしまう。
激しく踊る街の人達にタッティーナは踏まれていく。
同様にセツコも街の人達に踏まれていた。
そんな中、セツコが叫ぶ。
「ルリ姉ちゃん、タッくんを助けてよ」
無表情で激しく踊るルリの瞳から涙が溢れ落ちた。
ルリの視線の先には愛する弟の姿、指先がピクンと動くと次第にルリの体は自由になって、そしてタッティーナの所へ駆けて行く。
「タッティーナを回復したらセツコちゃんも直ぐに治療するから」
「ごめんルリ姉ちゃん、何言っているか分からないや」
そう言うとセツコは起き上がり、後ろを振り返る。
踊る街の人を邪魔だと言わんばかりにナイフで殺し、通り道を作る仮面の殺人鬼ロキ。
そんなロキにセツコは拳を突き出して、戦闘態勢をとった。
「そろそろ決着をつけないと……」
そう呟くセツコに対し、ロキは両手にナイフを二本手にして襲いかかるのだった。
第55話 完




