第53話[仮面]
セツコと一緒に街を歩いていると幾つか気がついた点がある。
街の中心にある大きな時計塔から音楽が流れており、その音楽に乗せ、街の人達がダンスを踊っているのだ。
そして驚いた事に、街の皆んなは踊りながら生活をしている。
セツコが立ち寄った屋台で、料理を注文をすると、店主は無表情でダンスを踊りながら料理を作り始め、そして出来上がった品を俺達に渡して来た。
お金を支払うと踊りながらソレをしまい、レストランの中では無表情でダンスを踊りながら料理を食べている人までいた。
この調子だと、踊りながら寝ている人やお風呂に入っている人も居るのでは?
そんな事を考えながら、俺はセツコと街を歩いて行く。
すると時計塔から人の声が聞こえて来た。
「まさか私の音楽に心を奪われない人間が居るとは……」
「芸術の分からない下衆なカップルめ」
「えへへ、お似合いのカップルだって、何だか嬉しいね」
「いやセッちゃん、お似合いだ何て言って無いし、かなり馬鹿にされてるよ」
「そうなの?」
「む〜、セッちゃんを馬鹿にする何て許せない」
俺は良いんだ……。
怒るセツコを宥めながら、俺達は時計塔を目指した。
あそこに犯人が居る。
そう思って、ダンスを踊る人達を避けながら走っていると……。
「タッくん危ない」
セツコに押され、俺はレストランの窓ガラスに頭から突っ込んでしまう。
ガラスの破片が頭に刺さり、顔中血塗れになりながら、セツコの方を振り返ると、セツコの右肩から血が流れていた。
「えへへ、油断しちゃった」
「タッくんは大丈夫?」
「うん、大丈夫だけど……」
本当は大丈夫じゃ無い。
寧ろ痛みで叫びたい位だ。
頭に刺さっているガラスの破片を取りながら、俺はセツコに何があったのかを尋ねる。
「人混みの中から刃物を持った人が現れて……」
なるほど、その人から守ってくれたのか。
「それでソイツは何処に?」
「直ぐに人混みの中に入っちゃったから、見逃しちゃった」
そうなのか。
くっ、確かにこの人混みじゃ見失うか。
ダンスを踊っていて、見えにくいし……。
待てよダンスって……。
気付いた時にはもう遅かった。
仮面を被った何者かがセツコの背後に立っており、手にはナイフを持っていた。
咄嗟にセツコを庇い、敵のナイフが俺の腹部を抉る。
「タッくん」
仮面を被った敵は直様、人混みに隠れ姿を消す。
やはりか、街の人達にダンスを踊らせているのは、仮面を被った敵の姿を見失わせる為、奴の身軽さは尋常じゃ無かった。
くそっ、この街に居る以上、奴は無敵だ。
冷や汗が額に滲む、セツコの泣き声が俺の鼓膜を刺激し、腹部の痛みで動く事も出来ない。
そんな絶対絶命の中、仮面を被った敵が俺にトドメを刺そうと襲いかかって来るのだった。
第53話 完




