第46話[ヤクモ・ジュウベイという男前編]
やるしか無い。
そう覚悟を決めた時だった。
不気味な市松人形が、俺達に話し合いで解決する様、提案してきた。
「話し合いで解決?」
「そうじゃ、我らはそなたらにこれ以上攻撃はせん」
「じゃから、そなたらも引き下がってくれぬか?」
何を言っているんだよ。
こっちはルリ姉達が固まって動けないんだぞ。
せめてルリ姉達を元に戻して貰わないと。
そう思い、俺は市松人形にルリ姉達を元に戻す様に頼んだ。
だが……。
「それはできん」
「個別に呪いを解く事は出来ぬのじゃ」
「そなたの仲間の呪いを解いてしまっては、この国の人間達も元に戻ってしまう」
「それだけは絶対に出来ぬ」
そんな……。
「すまぬな、まさか異国の人間が此処に来るとは思わなんだのでな」
「我らも生きるので必死なのじゃよ」
「そんなんで引き下がれる訳無いじゃないかよ」
「生きるので必死?」
「だったら俺が二人の生きる場所を提供してやる」
「だから……」
「先程も言ったが、呪いを解けばこの国の人間達も元に戻ってしまう」
「すまぬが、我はこの国の人間を信用する事は出来ぬのじゃ」
「特にそこの殿様と奥方はな」
何故そこまで信用できないんだ。
俺の問いに市松人形は過去の話しをし始めた。
まだ、肉体があった時の話しを……。
ヤクモ・ジュウベイは変人で有名だった。
彼の家には蜘蛛やゴキブリ、ヤモリやネズミなどが住み着き、誰も彼の家に近づこうとはしなかった。
「ジュウベイ、いい加減、部屋の虫達を駆除したらどうだ?」
「何を馬鹿な事を、皆んな一生懸命生きてんだい」
「可哀想じゃないか」
「可哀想って、この前、金玉を噛まれたから殺したって言ってたじゃないか」
「やられたらやり返す、俺に危害を加えなきゃ、皆んな家族みたいなもんさ」
そう笑いながら、ジュウベイは団子屋の茶を啜っていた。
そんなある日、ジュウベイの自宅に一人の少年が現れた。
弱りきった犬を持ち寄り、この子を助けてくれとお願いする。
少年の頼みに頭を悩ませるジュウベイ。
からくり技師として名を馳せてはいるが、医者じゃ無い。
只、犬を助ける方法はある。
魂を別の物に移動させる装置を作っていたからだ。
(駄目だ)
(体が人形になったら、この犬は悲しむだろう)
「分かった、俺に任せてくれ」
ジュウベイは山奥の作業場に犬を連れて行き、三日三晩、寝ずに看病した。
その甲斐もあって、犬は一命を取り留めるのであった。
「ジュウベイ、ありがとう」
「これお礼」
「馬鹿野郎、ガキから金何か取れるか」
「その金で菓子でも買いな」
そう言うとジュウベイは自宅に帰り、今まで眠れなかった分の睡眠を取るのであった。
第46話 完




