第43話[真実]
ご飯にお味噌汁、焼き魚にお漬物、そして奴の姿があった。
日本人でも食べられない人が居るアレが……。
「うっ、臭い」
「しかも糸を引いているわ」
ルリ姉はそう言うと納豆を遠ざけた。
サナに至っては蜘蛛型の魔物の卵なんじゃ無いかと観察している。
ジャガルもタイシ君もソルティナさんもルタも皆んなが納豆を遠ざける中、セツコだけが喜んで食べていた。
セツコならドリアンやシュールストレミングも難なく食えるのでは?
そんな事を考えながら、俺は納豆を口にしていた。
「これ本当に食べられるんだ」
俺とセツコが食べている姿を見て、ルタが思い切って納豆を頬張った。
だが、納豆の微かな苦味と糸引く感じが口に合わなかったらしく、ルタは泣き出してしまった。
「大丈夫、お姉ちゃんが今団子を買って来てあげるからね」
そう言うとルリ姉はお城を飛び出して団子を買いに向かう。
その間、俺はルタにお味噌汁や焼き魚を食べさせて、お口直しを計った。
納豆、美味しいんだけどな……。
ご飯を食べ終え、俺達はキミさんの兄弟子を尋ねてから龍討伐に向かう事にした。
「確かこの辺りの筈だけど……」
あるのは至って普通の一軒家。
本当に此処がキミさんの兄弟子の家なのか?
鍛冶場は中にあるのかな?
そんな事を考えながら、俺は戸を叩いた。
すると中から覇気の無い男の人がビクつきながら戸を開けて出て来た。
えっ、この人がキミさんの兄弟子なの?
えっとお姫様の話しに寄ると名前はシュウサイさんって言ってたけど……。
確認の為にセンヅル・シュウサイかと言って本人かどうか尋ねてみると……。
「如何にも私がセンヅル・シュウサイですが、あなた方は?」
取り敢えず勇者だと言って自己紹介をし、キミさんから伺った話しをして彼を褒めると、シュウサイさんは弱々しく笑い、俺達を家に上げてくれた。
「キミさんの話しは信じないで下さい」
「彼女の目にはそんな風に映ったかも知れませんが、実際は違います」
そう言ってシュウサイさんは過去の話しを俺達に聞かせてくれた。
元々、人と話すのが苦手だったシュウサイは弟子入りの際、挙動不審で緊張からか言葉を詰まらせたりしながら、伝説の鍛治職人に弟子にしてくれる様、懇願していた。
刀鍛冶だからと言う理由で運良く弟子になったシュウサイ。
厳しい修行の中、伝説の鍛治職人の事を親父と呼び、充実した毎日を送っていた。
「センヅル、お前のお陰で刀を作るのをマスターしたぞ」
「いやー、一人前だと思っていたけど、まだまだ勉強が必要だな」
そう言って笑う親父を見て、シュウサイは焦っていた。
こんな短期間で刀をあれ程までに仕上げる何て……。
このままじゃ、御役目御免で切り捨てられるんじゃ……。
そう思ったシュウサイは親父に土下座して、まだ居させてくれと懇願する。
「何を言っとるんじゃ、弟子が独り立ち出来るまで育てるのが師匠ってもんだろう」
それから数年経った後、シュウサイは親父から露店を開き、武器や武具を売る様に指示を出されるのだった。
「そんな、私にはまだ早いです」
「早いか早く無いかは師匠である俺が決める事だ」
「お前は鍛治職人だろ?」
「なら商品を売る事も学べ」
「そんな……」
親父は私をこの家から早く追い出したいんだ。
だから、こんな酷い指示を出すんだ。
今にも泣きそうになりながらも、シュウサイは商品を売る為にあの謳い文句を言って、お客を集めて言った。
だが、お客さんから指摘を受け、一瞬戸惑うも、シュウサイは必死になって考え、反論したのだった。
「決して私の作った武器や盾に自身があった訳ではありません」
「キミさんは勘違いしたのでしょう」
「彼女は何処か私に憧れを抱いていたので」
憧れと言うか、恋心を抱いていると思うのだが……。
まあ、その事はキミさん自身が彼に話す事か。
告白に関しちゃ、外野が口出ししちゃアカン。
本人がお願いしたのなら別だけど……。
「取り敢えず、一度帰ってみては如何です?」
「いえ、そういう訳には行きません」
「あの龍を倒す者が現れるまでは……」
そう言うとシュウサイさんは、部屋の奥から一本の刀を取りに向かうのだった。
第43話 完




