第25話[王様]
何度か階段を登らされて着いた部屋にこの国の王がいた。
「よくぞ参られた勇者様とその姉のルリ様」
「私がこの国の国王の……」
ド派手な玉座から降りて自己紹介を始める王様だったが、正直話しが頭に入ってこない。
えっ、何?
期待されてる?
俺、まだスライムも倒せて無いのに……。
「それで勇者様、今晩泊まる宿はおありかな?」
「もし良ければこの城の客室にお泊まりになられますかな?」
「何ならご馳走も用意しますぞ」
止めて、そんな接待しないで。
俺はスライムも倒せない勇者なのよ。
「申し訳ないですが遠慮します」
「ルリ姉もいいよね?」
「ええ、別にいいけど」
「って事で王様、帰らせてもらいますね」
そう言って帰ろうとする俺達を兵士達が止めてきた。
「勇者様、遠慮なんて無用です」
「貴方には将来、世界を救って頂くんですから」
マジか、期待が重すぎる。
くっ、仕方がない。
ここは何としてでも帰らなくては……。
「この愚か者、まだ分からないのか、俺達に用意するご馳走、それは国民達から集めた血税で賄っているんだろ」
「そんな事する金があるのなら、国民達に還元できるように考えろ」
「俺にご馳走より、国民を豊かにだろうが」
「タッティーナ、まだ子供なのに偉いわ」
ルリ姉に抱きしめられながら、俺の足は震えていた。
やばい、ちょっと言い過ぎたかな?
コミュ障過ぎて想像と違う事を言ってしまった。
「何と素晴らしい」
「流石勇者様ですわ」
背後からドレスを着た少女が拍手をしながら現れた。
「ああ娘の言う通りだ」
「どうじゃ、勇者様」
「娘と婚約してみんか?」
「ヤダッ、お父様ったらお恥ずかしい」
「でも、私……、勇者様とだったら……」
さてどうしたらいいのだろうか。
俺がそんな事を考えていると……。
「タッティーナに婚約はまだ早すぎます」
「姉としてそんなのは絶対に許しません」
まあ、そうだよな。
俺はまだ子供だもんな婚約なんて……。
んっ?
子供……。
そうだ、この手があった。
俺は指を咥え、子供らしさをアピールした。
そして……。
「タッくんはルリ姉と結婚するの」
ふっふっふ、将来はお父さんのお嫁さんになる作戦だ。
見ろ、兵士達も俺の子供らしさに和んでいる。
そんな時だった……。
「タッティーナ……」
「可愛い可愛い可愛い、ハァハァ、タッティーナ可愛いよぉ」
「お〜、よちよち」
姉が暴走し始めた。
第25話 完
 




