第19話[処刑間近]
「ほらっ、飯の時間だ」
そう言うと兵士は目の見えないキョウギクにパンと牛乳の入ったコップを握らせた。
「助かるよ」
「他にもスープとかあるから、飲みたい時は言ってくれ」
「ああ、感謝する」
そう言ってパンを貪り、牛乳を一気に飲み干すキョウギクを見て、兵士は複雑そうな表情を浮かべていた。
「この匂い、赤ん坊でも産まれたのか?」
数日前に兵士に向かってキョウギクが言った一言。
コレがきっかけでキョウギクと兵士は仲良くなった。
「おめでとう」
「新たな命が誕生する事はとても喜ばしい事だ」
そう言って、キョウギクは兵士に子供が出来た事を祝福した。
そんなキョウギクの処刑も近い内にされるだろう。
まだ処刑の日程は決まっていないが、普通なら魔王軍幹部を長く牢屋に入れて置きたく無い筈だ。
きっと、多くの国民達の前で首を刎ねられ殺されるのだろう。
そう考えるだけで、兵士の気が滅入る。
それから数日後、キョウギクの話しを聞きつけたお姫様がキョウギクの前に現れた。
「この馬鹿、殺しにくいんじゃ」
お姫様は自分の履いていた靴をキョウギクに投げつけ、そう怒鳴る。
魔王軍幹部なのに兵士達が処刑に前向きでは無い。
そう看守長に聞かされ、兵士達から事情を聞いたお姫様は収監されているキョウギクに怒りを露わにした。
「すまぬ」
「だから謝るな馬鹿」
お姫様はそう言うと、もう片方の靴を脱ぎ、それをキョウギクに投げつけた。
「姫様、何とハシタナイ」
「うるさい、この馬鹿が悪いのじゃ」
「すまぬ」
「だから謝るなボケ」
お姫様は大きな溜め息を吐き、頭を抱えた。
「魔王軍幹部なら幹部らしく、少しは悪者振りなさいよ」
兵士の家庭に子供が産まれた事を祝福する何て、魔物の癖に何考えてんのよ。
情で絆して、兵士達を誑かす気?
お陰であんたの死を悲しむ者まで出て来ちゃったじゃない。
父と母が外出して居ない今、私は一国の主、国の代表として魔王軍幹部を見過ごす訳にはいかない。
なのに、これじゃあ私が悪役みたいじゃない。
「言っとくけど、どんなに兵士達を誑かそうとも、私はあんたを殺すからね」
「ああ、分かっている」
キョウギクの返答にイライラしながらも、お姫様は地下牢を後にした。
「俺の命も後少しか」
そう呟くとキョウギクは過去の思い出を振り返っていく。
今まで色々な事があった。
人を大量に殺したり、人に救われたりと色々だ。
ネクロマンサーには感謝している。
魔王様には一杯苦労をかけたな。
何一つ、恩返しが出来ていないけど、出来る事なら来世でも魔王様の子供として生まれ変わりたいものだ。
「フッ、神と敵対する俺が来世でもか……、傑作だな」
そう呟きながら、一人笑うキョウギクの前に何者かが現れて、そして……。
第19話 完




