第13話[憧れ]
一体何が起きているんだ?
いきなりドアが開いたかと思えば、一瞬で魔物達を斬りつけ人質を救ってくれた。
ありがたい事何だけど……。
この人は一体誰なんだ?
「フッ、情け無い姿だな」
「情け無い姿だと?」
「それはキョウギク、お前の事だろう」
それに二人は何だか知り合いみたいだし……。
一体全体、どうなってんだ?
「君が勇者のタッくんか?」
「ええまあ……、どちら様で?」
「ああ、すまない」
「俺の名前はキョウギク、魔王軍幹部をやっている」
「こんな姿をしているが、一応魔物だ」
えっ、魔物なの?
どっからどう見ても人間だけど……。
「フフフ、どうやら話しに聞いていた通りの人物の様だな」
「自分より下だと分かれば容赦はしないか……」
「まさか魔王軍幹部を嬲り殺しにする気とはな」
はっ?
誰だよそんな事を言った奴は?
陰口か?
だったらちょっと傷ついちゃうかも……。
それにシグラのこの怪我は俺がやった訳じゃ無いし……。
「そんな鬼畜勇者に頼みがある」
「弟のシグラを解放してやってはくれないか」
「代わりに俺の命をくれてやる」
いや、そんな事を言われても困る。
俺はキョウギクにこれまでの経緯を説明し、シグラの様な凶悪な奴を野放しに出来ない事を話した。
「分かっている」
「だが、こんな奴でも死ねば悲しむ者が居る」
「だから……、頼むよ」
剣を下ろし、キョウギクが俺に頭を下げて来た。
どうしてそんな事を言う。
そんな風に言われたら、殺しにくいじゃ無いか。
「何処まで情け無い姿を晒すつもりだ」
「かつては鬼神の如く人を殺し回ったお前が、人間に……、それも勇者に頭を下げる何て……」
「この恥晒しめ」
瞳に涙を溜めながらシグラは過去を思い出していた。
憧れだった兄のキョウギク。
誰も寄せ付けない程、鋭い目をして周りを威嚇する。
あの魔王軍最強の引き篭もりの兄に対してもそうだった。
「どうしてそんな目で見るのさ」
「僕は何も悪い事をしていないだろ?」
「止めてよ」
「止めろってそんな目で見るのは、出なきゃその顔……、潰しちゃうよ?」
「ああ?」
「やってみろや?」
結果、キョウギクは一撃も喰らわせる事無くボコボコにされた。
そんなキョウギクの姿を見て、俺はカッコいいと思ってしまう。
誰も勝てる事のない相手に一歩も引かないその姿は幼い俺の目には輝いて見えた。
「魔王様、僕もキョウギクみたいに強くなれるかな?」
「強くなりたいのかい?」
「うん、僕も魔王軍幹部だからね」
「誰よりも強くなりたい」
「強くなってどうする?」
「それは……」
特に人を殺したい訳では無い。
ただ俺は魔物らしく在りたかったんだ。
そうキョウギクみたいに……。
「特に理由が無いのなら力を求めるのは止めた方がいい」
そう言って魔王様は俺の頭を撫でてくれた。
「君には力よりも素晴らしい物があるからね」
「それを大事にした方がいい」
力より素晴らしい物?
俺は疑問に思い、魔王様にそれは何かと尋ねてみた。
すると魔王様は俺を抱きしめてこう言ってくれた。
「君は誰よりも優しい」
「ルビックやシャルディとキャルディの面倒もみてくれる」
「その優しさが君の素晴らしい物だよ」
「無理して力を求める必要何てないさ」
優しさが僕の持つ素晴らしい物なのか。
だったら僕はもっともっと優しくなって、僕の良い所をどんどん伸ばして行こう。
この時の俺はそう考えていた。
だが、勇者が産まれ魔王様がある決断をし、俺の全てが変わって行く。
「地上に降りるって?」
「はい、勇者の情報を探りつつ人間を滅ぼそうと思います」
「人間を滅ぼすって、君は分かっているのかい?」
「悪い事をすれば、それを正そうとする正義が現れる」
「下手すれば……」
「分かっていますよ」
俺はそう言って魔王城から去って行った。
魔王様の為ならこの命、惜しく無い。
大好きな魔王様が勇者……、人間達に殺されるかも知れないんだ。
黙っていられる訳無いだろ。
俺のこの気持ち、想いが悪だと言うのなら俺は潔く死を受け入れよう。
だからこそ、キョウギクが勇者に頭を下げ俺の命を救おうとするのが許せなかった。
俺のこの覚悟を踏み躙る様で不快だったんだ。
「俺は死ぬ覚悟を持って、此処までやって来た」
「俺は死ぬまで勇者を殺す事を諦めない」
全ては魔王様の幸せの為に。
第13話 完




