第6話[約束]
耳に残る同族達の悲鳴。
爆風に乗せられ漂う血の匂い。
此方にはかなりの数の戦力が居た筈だ。
国を攻めるのに申し分ない数の戦力が……。
「感じる」
空から強力な魔力の持ち主がいる。
そしてこの先には異彩を放つ人物がいる。
「さて、覚悟を決めるか」
弟のシグラと再会した時、俺はシグラと一つ約束をしていた。
「久しぶりだなシグラ、魔王様の真似事をしているんだってな」
「真似事だと?」
「馬鹿にするな」
「立場はちゃんと弁えている」
「俺が下界で城を構えるのは全て魔王様の為」
勇者に纏わる話しを集め行動する。
奴はその為に人間界で魔物達の国を作ったのだと語っていた。
まあ、奴は奴なりの考えがあって行動しているのだろう。
かくいう俺も人間を守る為に行動している。
それが魔物達に対する裏切り行為だと分かっていてだ。
「キョウギク、光の騎士について何か知っているか?」
「光の騎士?」
「何だそれは?」
シグラの話しでは光の騎士は悪しき攻撃を無効化できるらしい。
その噂が本当であれば勇者より厄介な存在だとも言っていた。
正直、そんな話し信じられないでいた。
だけどコイツがこうして俺の前に現れたのだから、その噂は恐らく信憑性が高いものなのだろう。
でなきゃ、コイツが俺の前に現れる訳が無い。
人間の味方をする俺の前に……。
「それで俺に話ってその事か?」
「ああ、そうだ」
「お前に光の騎士を殺して貰いたい」
何を馬鹿な事を……。
俺は魔物だぞ。
光の騎士に攻撃したって意味ないだろうに。
その事を話すと奴は笑いながらこう返して来た。
「昔のお前なら間違いなく光の騎士に傷一つ付けられないだろう」
「だが、今は違う」
「弱い人間を守る為、お前は魔物達と戦ってきたではないか」
「そんなお前なら光の騎士を殺せるやもしれん」
つまり俺は悪しき存在じゃ無くなったという訳か?
本当に馬鹿だな。
「もしそうだとして、今の俺が分かったと言って光の騎士を殺すと思うか?」
「ああ、思うさ」
「いやお前は光の騎士を殺す為、俺に力を貸すと断言できる」
そう言うとシグラは幹部達の話しを始めた。
ザネンの作戦が失敗に終わった事、シャルディとキャルディとルビックが勇者に破れた事、それらを話し、そんな勇者が光の騎士と組んだらどうなるのか俺に話し、最後にシグラは俺にこう言ってきた。
「魔王様が勇者達に殺されてもいいのか?」
そう言われると俺は弱い。
魔王様……。
「ごめんねキョウギク」
「君をそんな姿に産んでしまって本当にごめん」
人間の容姿にコンプレックスを抱く俺に魔王様は悲しげな表情で謝って下さった。
魔王様は何も悪くないのに、俺は何も答えずにその場から去って行った。
あれから魔王様と会っていない。
俺は本当に親不孝者だ。
「分かった」
「魔王様の為に今一度、人を殺そう」
「ただし条件がある」
俺はシグラに光の騎士以外を殺さない様に約束する事を迫った。
だが、奴の返事は決して良いものでは無かった。
「いや、国を滅ぼす」
「ならば、光の騎士を殺す前にお前の国を滅ぼすぞ」
「ちょっとは落ち着いて物事を考えろよ」
「これは戦争なんだ」
「光の騎士を守る為、国も全力で抵抗してくるだろう」
「それに王族は殺しておかないと後に面倒な事になる」
「そして王を失った国がどうなるか、お前は考えた事があるのか?」
周辺諸国から兵士が送り込まれ、王族を失った国は他国に乗っ取られてしまうだろう。
そうなれば生き残った人間達は悲惨だ。
奴隷として地獄の日々を送る事になる。
そうなる前に殺してしまった方が責めてもの救いになる筈だ。
「いいかキョウギク、世の中お前を救ってくれた人間達の様に優しい奴ばかりでは無い」
「まっ、何百年も人間界で過ごしてきてるのなら、その位分かってはいるだろうがな」
「それでも不必要に人間を殺すのは止めてくれ」
「他国が攻めて来るのなら俺が居座り蹴散らしてみせる」
「だから……」
「ハァ、分かったよ」
「なら国民と抵抗しない兵士は殺さない」
「これでいいだろう?」
「ああ、すまんな」
こうして俺は今、戦場に立っている。
俺は剣を抜き、異彩を放つ者の前に立った。
人を守ると決めた時から使っている愛用の剣。
すまんな。
お前に辛い思いをさせてしまう。
そう剣に語りかけ、俺は目の前にいる人物に自分の名前を語る。
「俺の名前はキョウギク」
「魔王軍幹部の一人だ」
「それでお前の名前は何と言う?」
「ハァ、魔王軍幹部に名乗る訳ないでしょう」
「あなたは馬鹿何ですか?」
そう言うとジャガルはキョウギクに剣を向けるのだった。
第6話 完




