第80話[再会]
俺達は海を渡り、新たな国へ来ていた。
サルナミア王国。
城下町は賑わい、人が沢山居る。
「お兄さん、焼きたてのミートパイは如何かな」
「そこのお姉さん、クリームたっぷりの焼きたてのクリームパンはいかがですか」
道行く度にそう声をかけられ、ついつい食べ物を買ってしまう。
美味しそうな匂いが鼻を刺激し、綺麗な仕上がりに食欲がそそられる。
セツコ何か誘惑に負け過ぎておかわりまでしちゃってる。
此処は食い倒れの国なのか?
「んっ、サナは食べないのか?」
「ええ、私は大丈夫です」
ミートパイとクリームパン、サナは嫌いなのかな?
それにしてもサナの様子が少し可笑しい。
辺りを見回してるし、店を開こうともしない。
何でだろう?
そう思っていると、前を歩いていたメイド服を着た女性が手に持っている荷物を落とした。
「お嬢様……」
「ひっ、フロスティアさん」
フロスティア?
あっ、思い出した。
サナのお屋敷のメイドさん。
サナの過去の記憶に出てきた人だ。
此処ってサナの故郷なのか?
って事は……。
「お嬢様、お会いしとうございました」
サナに向かって両手を広げ走って来る。
やっぱり、感動の再会って奴か。
俺はその様子を微笑ましく眺めていたのだが……。
メイドのフロスティアさんは何処からかロープを取り出してサナを拘束していく。
「はっ?」
あまりの出来事に空いた口が塞がらない。
恐らく皆んなも俺と同じ反応だろう。
「ヘルプ」
「タッくんさん、ヘルプです」
無茶言うなよ。
サナを縛る時のメイドのお姉さんの顔、鬼神みたいだったぞ。
そんな怖い人を相手に出来るか。
「勇者様……、ですね?」
「どうぞ着いてきて下さい」
「お屋敷に案内します」
先程の感情豊かな表情とは打って変わり、無表情でそう話す彼女を見て俺は思わず視線を逸らしてしまう。
うぅ、怒っているのかな?
急に無表情になるとそう思ってしまう。
引き摺られるサナを見つめながらメイドのお姉さんの後を追う。
そして着いたのが、とても大きなお屋敷だった。
「どうぞ中へ」
室内に案内させられ、俺達は客室へ通された。
「これはこれは勇者様、よくぞいらっしゃいました」
「お嬢様がご迷惑をお掛けしていませんでしょうか?」
執事さんは笑顔で何処と無く優しそうだな。
ちょっと話しやすいかも。
「いえ、サナにはとてもお世話になっていて……」
「そうでしょう、そうでしょう」
「分かったら早く縄を解いて下さい」
「縄を解いて下さいじゃ無いでしょう」
「勝手に屋敷から抜け出して、そういう所はバルサ様とソックリ何ですから」
執事の爺やさんがサナに説教をしている中、セツコが俺に話しかけて来た。
「バルサってサナちゃんの名前だよね?」
「あっ、私もそれ思った」
ルリ姉も気になり、サナにその事を尋ねるとサナは溜め息を吐き、真実を語った。
「成る程、各地でバルサ様の名前を聞いたと噂がありましたが、その正体がお嬢様だったとは……」
「バルサ様もあの世で喜んでいる事でしょう」
涙をハンカチで拭う爺やさん。
サナのお爺ちゃんを想う気持ちに心打たれたんだな。
ルリ姉何か大泣きしてるし……。
「さあ勇者様、そしてお仲間さん達、今日はこのお屋敷でゆっくりしていって下さい」
そう言われ、俺達はそれぞれ部屋を選び休む事にする。
美味しい夕食に大きなお風呂。
フカフカのトリプルベッドに広い部屋。
サナの家は本当に凄いな。
「いや〜、まさかトリプルベッドを一人で占領できる日がこようとは……」
赤奈ちゃんフィギュアを飾り、俺は赤奈ちゃんと二人、優雅な時間を満喫する。
そして翌朝、部屋の扉がノックされ俺は寝ぼけ眼を擦りながら、部屋の扉を開ける。
するとサナが泣きながら部屋に入って来た。
「タッくんさんお願いです」
「私を連れて逃げて下さい」
連れて逃げるって何で?
そう思っていると、爺やさんとフロスティアさんが部屋に入って来た。
サナが俺の後ろへ隠れる。
この二人に何か言われたのか?
泣いているサナを見つめ、俺は拳を強く握った。
「サナ、泣かなくて大丈夫だ」
「頼りないかも知れないが、俺がサナを守ってやる」
サナにそう言うと、俺は爺やさんとフロスティアさんを睨み威嚇するのだった。
第80話 完




