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第78話[愛娘]

朝になり、俺はセツコの声で目を覚ました。

椅子で寝ていたせいか体が痛む中、落ち着いた表情でベッドから上半身を起こしている少女を見て、俺は少し安堵した。


「お兄ちゃん達は?」


「そうか、自己紹介しないとだな」


俺達は少女に自己紹介をして、彼女の名前を教えてもらう。


「私の名前はヒヨ」

「お兄ちゃん達にお願いがあるんだけど、いいかな?」


そう言うとヒヨはトランラッタ国の王様にごめんなさいがしたいと言い出した。

罪を償う覚悟は出来ている。

その上で王様が生きる事を許してくれるのなら、生きようと思っているとヒヨはそう俺達に語った。


ヒヨとリヘロを連れて、俺達はトランラッタ国の王様に会いに行く。

俺達は指名手配されているお尋ね者。

そんな俺達に王様は罪を言い渡し罰を与えなければいけない。

だから俺達は簡単にトランラッタ国の王様と会う事が出来た。


「ようやく捕らえたか」

「それでは早速、罪を言い渡そう」


「その前に王様、お話しがあります」


「話しじゃと?」


俺はヒヨが着ているローブのフードを捲る。

ヒヨの顔を見た王様の表情が変わり、そして大きな声で笑い始めた。


「誰に聞いたか知らんが、娘を殺した犯人を捕まえ私に差し出して罪を無かった事にしようと言うのか?」

「フフフ、良いだろう」

「勇者達と盗っ人の小娘の罪を無かった事にしよう」


愛娘の復讐ができ喜ぶ王様。

彼女がまだ子供のままな事に疑問に思わない程、彼女を憎んでいるのだろう。

そんな王様を他所に俺は幽霊のお姫様に別れの雫を数滴かけた。

するとお姫様の姿が城に居る全ての人達に見え、辺りがザワつき始める。


「なっ……、リミ……、なのか?」


「はい、お父様」


王様は震える手で口を押さえる。

そして瞳からは涙が溢れ出していた。


「お父様、どうか彼女を許してあげて下さい」

「彼女は魔物の血のせいで正気でいられなかったのです」


「許せだと?」

「何を言っているんだ」

「ハッ、そうかこれは幻……、勇者の幻術か」


「お父様、私は幻なんかじゃございません」

「信じて下さい」


「ええい、黙れ」

「おのれ勇者め、よりにもよって姫の幻を私に見せる何て何を考えておる」


怒る王様に対し、サナが話しかける。


「そんなに幻だと思うのであれば裁きの杖を使ってはどうでしょう」

「祖父が作ったその杖ならば、多少の幻術は打ち破れる筈です」

「少なくとも幻だと騒ぎ立てる程度の幻術なら問題なく打ち破れるでしょう」


サナの言葉を聞いた王様は溜め息を吐き、裁きの杖を使おうとしなかった。

本当は分かっている。

娘ならそう言うだろうと分かっていたんだ。

それが例え幻だろうとも……。

でも、許せと言われて許す事なんてできる筈がない。

幸せな思い出があればある程、犯人に対しての憎悪が膨れ上がっていく。

娘が死んだのに、何故犯人が生きている。

生きて欲しくない。

死んで欲しいと願うのは当然の事じゃないか。


「私はその子を許す事が出来ないんだ」


閻魔の様な恐い顔は今の王様にはもう無い。


「お願いですお父様、どうかこの子を許してあげて下さい」


「無理だ」


「お願いです」

「私の最後の我儘をどうか聞いて下さい」


王様は言葉を詰まらせ、悲痛な声を上げて泣いた。

最後の我儘か。

その言葉が王様にとって、とても辛い言葉だったのだろう。

何故ならもう、愛娘の我儘を聞いてやれないのだから。


「分かった」

「リミに免じてその娘を許す事にする」

「だが、教育者と兵士達の遺族はどうする?」

「この子の件は私一人だけでは決められない」

「それだけは分かってくれ」


そう言うと王様は被害者遺族の人達を呼び、話し合いの場を設けてくれた。

話し合いが始まる前に被害者遺族の人達が王様と同じ様に死んだ子供達の意見が聞きたいと言い始めた。

正直、姫様以外幽霊を見かけなかったので不安だったが、被害者遺族の人達が失敗してもいいからと言ってくれたので試す事にした。

結果は成功し、被害者遺族の人達と幽霊、そして王様と幽霊のお姫様を交え話し合いが始まった。

そして……。


「我々は彼女を許す事にした」

「これからは教会の孤児院で過ごし、罪を償うべく多くの人達を助けなさい」

「尚、次に犯罪を犯せば問答無用で極刑を下す事にする」


ヒヨは生きる事を許された。

そしてリヘロも無罪となり、無事にこの件は片付いたのだった。


「勇者様、ありがとうございます」


「いや、俺は何もしていませんよ」

「寧ろお姫様のおかげで助かりました」

「此方こそ、ありがとうございます」


「フフフ、そんな事ありませんよ」

「それで勇者様、私は成仏するまで家族と過ごそうと思います」

「他の幽霊達も私と同じ様に家族と過ごす事でしょう」

「ですから此処でお別れですね」


「そうですか……」


「寂しいですか?」


唐突に顔を近づけて来て、俺は思わず目を逸らし顔を赤くした。


「どうしてお顔を背けるのですか?」


くっ、からかって楽しんでやがるな。

俺は仕返しのつもりでお姫様にこう言ってやった。


「成仏するまで俺と一生に過ごさないか?」


「えっ……」


お姫様の顔がどんどんと赤くなっていく。


「いいだろう、俺のチンを見た仲じゃないか」


あの時の事を思い出したのか、お姫様は両手で顔を隠し恥ずかしがる。

そんな時だった。


「チンが何です?」

「私、気になるんで教えて貰えませんか?」


「タッティーナ最低」


「不潔だよお兄ちゃん」


「タッくん、チンて何?」

「食べられるの?」


サナ達が現れ大変な事に……。


「さてお姫様、俺はこの辺で……」


そう言うと俺は逃げる様に去り、サナ達がその後を追いかけて来た。


「さよなら勇者様」

「出来る事なら生きている内にお会いしたかったです……」

「いや、生きていても勇者様とは歳が離れているから結ばれませんよね」

「出来る事なら同じ年に産まれたかったです」


第78話 完

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