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第61話[極刑]

船から降りてもまだ揺れた感じがする。

セツコも船酔いのせいで何も食べていないから、お腹は空いている筈なのにまだ気持ち悪いのか、俺達は何も食べずに宿屋で体を休める事にした。

そして翌日。

朝も早い中、セツコが俺の名前を連呼してドアを叩く音で俺は目を覚ました。


「タッくん、お腹空いたね」


「いや、今はお腹より凄く眠たいけど……」


昨日は夜まで眠り、深夜からルリ姉とルタとカード遊びをして、その後は朝方まで赤奈ちゃんフィギュアを眺めていたからな。

正直、食欲より眠気の方が強い。


「よし、それじゃあ朝ご飯食べに行こう」


何がよしなの?

俺はセツコに引きずられながら無理矢理、外へ連れ出される事に。

まだパジャマ姿なのに……。


「それで何食べる気?」


見渡す限り人は居ないし、店も開いてる気がしない。

朝、早過ぎたんじゃ……。


「フッフッフ、タッくん此処は何処?」


「えっ、港町だけど……」


「そう、港町」

「きっと海には漁師さんが居て、今頃、新鮮な魚を一杯並べてると思うの」


確かに、朝方に水揚げされた魚を市場で売りそこからお店の人が回って買ったりして、店頭に並ぶ。

この世界も前の世界もそういう所では同じかも知れないな。

んっ、待てよ。

て事は……。


「タッくん食堂開店だね」


俺に作らせる気かよ……。

まあ、いいか。

塩焼きにでもして、さっさと寝よう。

そんな事を考えていた時だった。

セツコに向かってぶつかって来る女の子がいた。

こんな人が居ない状況でぶつかるか普通。

あからさまなスリ何じゃ無いのか?

そう思い、俺はセツコに声をかけた。


「財布盗まれてないか?」


「うん、盗まれてるよ」


「えっ、だったら早く捕まえないと」


「いいのあの子、切羽詰まった顔をしてたから……」


えっ、そうなの?

特に顔まで見て無かったから分からなかった。

そうか、あの子にも何か事情があるのか。

でも……。


「セッちゃん、スリは犯罪だよ」

「見逃すのはあの子の為にも良くないよ」


「うん、でも……」

「ごめんなさい」


何でセツコが謝るんだよ。

はぁ、全くセツコはお人好し何だから。

仕方ない塩焼きに加え、あら汁でも追加で作ってやるか。


「それでセッちゃん、お金を盗まれてどうやって魚を買うわけ?」


「うっ……」


少し意地悪を言って、宿屋にお金を取りに帰る。

そして魚を買いに市場へ向かうのだがその道中、先程セツコに対しスリを働いた少女が商人のお姉さんに取り押さえられていた。

どうやらセツコの一件で味を占めたらしい。


「ああ、まだ子供なのに可哀想だな」


「よりによってスリを働く何て」


「こりゃ、両手切断されるな」


周りの人達の会話を聞き、セツコが飛び出して行く。

そして庇う様に女の子を抱きしめるとセツコは商人に「盗んだお金なら返します」と話した。

周りがざわつき、商人のお姉さんは溜め息を吐く。


「そりゃ私だって、お金を返してくれれば文句は無いさ」

「だけどね、この街で……、ううん、この周辺諸国で犯罪を犯せばタダじゃ済まないんだよ」


そう言うとお姉さんはトランラッタ王国について話しを始めた。

この大陸の一部地域の犯罪は全てトランラッタ王国が管理しているらしく、罪には極刑で罰を与えているみたいだ。

当然ながら子供だろうが老人だろうが容赦はしない。

スリには両手切断、殺人に関してはその犯人の家族皆殺しだと言う。


「犯罪者を見逃したと知られれば、私は両目をくり抜かれてしまう」

「だから見逃す訳にはいかないんだよ」

「それにその子だって覚悟の上でスリ何てしてんでしょ」


商人のその言葉に女の子は泣きながらお母さんが病気だという事を話した。

ここ数日、食べ物もロクに食べられず、吐き出してしまうらしい。

それを聞いて、俺の額から汗が滲む。

もし昨日、俺達が宿屋で直ぐに休まず街を回っていれば彼女はスリ何てせずに済んだのでは?

そう思うと辛く、直ぐに宿屋で休んでしまった事を後悔する。


「だったらセッちゃんがその国の王様と会って話しをする」


セツコ……。

そうだよな。

まだこの子を救える可能性は残っているよな。

俺はセツコの前に立ち、商人に勇者のアザを見せた。


「勇者として放っておく訳に行きません」

「良かったら、もっと詳しい話しを聞かせてくれませんか?」


俺はそう言うと商人に宿屋から持って来たお金を握らせた。


第61話 完

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