第60話[地獄の船旅]
港町に着いた俺達は次の大陸に向かう為に船を手配していた。
サナが船の手続きをしてくれている中、セツコは屋台を回り食べ歩きをしていた。
「はわわ、セッちゃんのお口幸せだよ〜」
「セッちゃん、食べ過ぎると後が辛くなるよ」
「平気平気、ほらっ、タッくんも食べて」
そう言って口に食べ物を突っ込まれる。
何だこれ?
鶏肉かな?
ジューシーで確かに美味い。
「タッくんさん、手続き終わりました」
「二時間後に出発らしいです」
「ありがとうサナ」
「ほら、セッちゃん準備はいいの?」
「うん、平気平気」
それからニ時間経ち、船に揺られる事しばらく……。
サナとタイシ君を除き、俺達は完全にダウンしていた。
陸の船と呼ばれる馬車(勝手に思っている)が平気だから船も大丈夫と思っていたけど、甘かった。
めちゃくちゃ揺れるな船。
三半規管が刺激され、胃の中の物が吐き出しそうになる。
そんな中、セツコが立ち上がった。
「もう……、無理……」
あんなに食べるから……。
セツコなら案外大丈夫かもと思ってたけど、やっぱり駄目だったか。
「タッくん、見ないで」
セツコの言葉を聞いたルリ姉が、気を利かせて俺の目を塞ぐ。
嫌な音が俺の耳に聞こえてくる中、俺は思った。
そうか、セツコも女の子だもんな。
あんまりそういう所、見られたくないよな。
そう思い、俺は耳を塞いだ。
「セッちゃん限界……、まだ着かないの……」
「馬鹿言え、まだ二時間も経っていないぞ」
船員の言葉を聞き、セツコも俺も絶望していた。
えっ、まだ二時間も経ってないの。
確か、到着予定は一日半。
えっと……、三十六時間か?
その内の二時間未満って……。
先が思いやられる。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、私も駄目かも……」
ルタの顔色も悪くなってきている。
ルリ姉何て、ルタを抱きしめながら魂を抜かれた様な顔をしているし……。
俺も吐きそうに……。
「そうだ、チョコに乗せて貰いましょう」
「駄目だよルリ姉、こんな所で呼び出したら船が燃えちゃうよ」
仮に船の外で呼び出しても船に近づかないとルリ姉はチョコに乗れないし、近づいたら近づいたで結局船が燃えちゃう。
船から飛び降りて直ぐに召喚ってのもなぁ。
失敗したら溺れちゃうだろうし……。
そんな中、タイシ君が酔い止めの薬を調合してくれた。
「まだ一個しか作れてないけど、誰から飲む?」
「それならルタに先に飲ませてあげて」
「皆んなもいいかな?」
セツコもルリ姉も力無く頷いてくれた。
「ありがとう二人共、二人も辛いのに……」
「ううん、セッちゃんはルタちゃんよりお姉さんだから我慢しないと……、うっ」
セツコはそう言うと吐きに向かった。
「さあルタ、お薬飲んで」
「うん、ありがとう」
ルリ姉はタイシ君から薬を受け取ると、それをルタに飲ませてあげる。
「ふむ、私も錬金術で薬をと言いたい所ですが、船の中では揺れて釜の水が溢れちゃいますからね」
「こんな事なら事前に作っておくべきでした」
うっ、そうだな。
今度からは事前に酔い止めの薬を飲む事にしよう。
数時間後ルタは回復し、俺達はタイシ君が作る酔い止めの薬が出来るのを待った。
そして一日半が経過してようやく地獄の船旅から解放される事になる。
第60話 完




