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第57話[覚悟]

能力が解けた反動でルビックが目を覚ます。

まだ頭が痛い、でもまあ勇者とその仲間を始末出来たのならこんな痛み、安いもんだ。

そう思い、クラケン君とゴリッキー君にテレパシーを送る。

だが、二人からの返事は無かった。

嫌な予感がしつつ、ルビックは第一の能力である瞬間移動をし、勇者達がいた場所の近くまで飛んだ。


「そんな……」


負傷しているのは勇者の姉である魔法使いとその妹。

肝心の勇者はピンピンしているではないか。

海の中でクラケン君を倒す何てあり得ない。

海の底へ引きずり込まれて窒息死するのが目に見えていた。

なのに何故?


「くっ……」


頭痛が思考の邪魔をする。

深く考えたって仕方がない。

要は勇者が僕の思っている以上に強く化け物だったってだけの事。


「帰って報告かな……」


ふと立ち止まる。

本当にこのまま帰っていいのか?

今なら勇者の姉とその妹は確実に殺せるんじゃ……。

二人の命と引き換えに僕は必ず勇者達に殺されてしまうだろう。

だけど、魔王様の為ならこの命……。

僕は頭が酷く痛む中、過去を思い出していた。


魔王城で産まれた僕は酷く泣き虫だった。


「どうして泣いているんだい?」


「ザネン達が僕をイジメるんだ」


「そうか、だけどごめんね」

「僕は放任主義で彼らに何も言えないんだ」


そう言って魔王様は僕が泣き止むまで抱きしめてくれた。

分かっている。

魔王様は魔物達の王。

誰かを特別扱いすれば誰かが不満を持つ。

だから僕達に深く関われないんだ。

それでも、抱きしめてくれた。

僕は魔王様が大好きだ。

そんなある日、魔王様がザネン達と話しをしている場面に出会した。


「ルビックをイジメるなですか」


「ああ、彼……、彼女かな?」

「兎に角、ルビックが泣いている姿を僕は見たくないんだ」

「いや、ルビックだけじゃない」

「僕の子供達が泣いている姿を僕は見たくない」

「だからお願いだ、僕の為を思って優しくしてやってくれないか?」


「はあ、魔王様がそう仰られるなら」


それを陰で聞いていて、僕は堪らなく嬉しかった。

それだけじゃない、魔王軍幹部最強のアイツが暴れた時も、魔王様は僕を身を呈して庇ってくれた。

魔王様なら簡単に奴を捻じ伏せられたのに、暴力を振るわず、自身が傷つく方法で奴を説得し、宥めていた。

そんな魔王様の為に……。


「この命、使わないとだね」


僕は勇者達の所へ瞬間移動して、魔法使いめがけ爪を振り下ろした。

刹那、僕の顔面に拳がめり込む。

鼻から大量の血を撒き散らしながら、僕の体は数メートル先へ吹き飛んだ。

視界が歪む。

やばい、体に力が入らない。


「えっ、何が起きたの?」


「う〜ん、よく分からないけど、急に変なのが現れてルリ姉ちゃんを襲おうとしてたから、セッちゃん殴っちゃった」


くそっ、何を話しているんだ。

いや、そんな事はどうでもいい。

早く逃げないと、このままじゃ犬死にに……。

あれ?

能力が使えない。

ハハハ、ダメージを負い過ぎて能力が使えなくなったんだ。

ああ、魔王様……。

もう一度、あなたに……。


「きゃぁ、ゾンビよ」


唐突に街の人達が騒ぎ出す。

もはや顔を上げる事すら出来ないルビックは街の人達の叫び声で現状を理解する事しか出来なかった。

ゾンビ達は勇者達に襲いかかり、その隙に狼型の魔物のゾンビがルビックを咥え背中に乗せて走り出す。


「ごめんよルビック」

「僕にはこれくらいしか出来なくて」


そう謝ってくるゾンビ犬。

恐らく死体を通して話しかけているのだろう。


「いや、いいさ」

「完全に仕止め損なった僕が悪いから」


恐らく彼は魔法使いとその妹を殺さないだろう。

だって彼は魔王軍幹部の中で誰よりも優しいから。

フフフ、死体を操る癖に命を大切に思うネクロマンサーって何だよ。

可笑しくて笑っちゃうよ。

でも……。


「ありがとうネクロマンサー、お陰で死なずに済んだよ」


「うん」


第57話 完


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