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第54話[天才]

姉と妹が此方に飛んで来るのを確認し、シュシュは安堵する。

後は安全な所でルリちゃんを下ろし、休ませるだけ。

そう思っていたが、事態は急変する。

姉と妹の姿が薄くなってきている。

そして自分も……。

これは不味い。

ルリちゃんの魔力が底を尽きかけている。


「ルリちゃん、私達だけでも消して」

「でなきゃ二人はこのまま底無し沼に落ちちゃうわ」


そんなシュシュの叫びも虚しく、ルリの魔力は切れてしまい、召喚されたチョコと妖精の三姉妹は消え、二人はそのまま地上へ落ちてしまう。

森の木の枝がクッションになる代わりに、二人の体は傷だらけになり、底無し沼に落ち、体中が泥まみれになりながら、沼が二人をゆっくりと飲み込んでいく。


(このままじゃ死んじゃう)

(私がお姉ちゃんを守らないと)


ルタは起き上がり、ルリを肩にかけ立ち上がる。

だがその行動で膝まで泥に浸かり、泥の重みで足が抜け出せないでいた。

それでも懸命に足を泥から抜こうとするルタ。

やっと一歩踏み出せたかと思ったら、太股まで足が沈んでしまう。


「私は諦めない」

「絶対にお姉ちゃんを守るんだ」


そう叫ぶルタだが、頭の中ではもう駄目な事を理解していた。

どんなに足掻こうと泥の中に沈むだけ、このまま沼に沈み、窒息死してしまうんだ。

そう分かっていても、その現実を受け入れる事が出来ず、前向きな言葉を口にして自分に言い聞かせていた。


「大丈夫、私達は助かる」

「だから……」


ルタ達の前に片腕を失ったゴリッキーが現れる。

全身泥に塗れ、片腕だけでがむしゃらに這い上がって来たのだ。

ゴリッキーの残された手には大きな棍棒が握られている。

そしてその棍棒が大きく振り上げられた時、ルタは奇妙な体験をする。

体が沼に沈まない。

目の前の魔物も棍棒を振り上げたまま動かない。

そして、隣にいるお姉ちゃんの呼吸は止まっていた。


「お姉ちゃん、しっかりしてお姉ちゃん」


そうルタが必死に叫ぶ中、背後から声が聞こえてきた。


「フフフ、驚かせてしまったかな?」


シルクハットを被った少女が歩いて来て、ルタにそう語りかけて来た。


「いやー、若いって素晴らしいですね」

「本当ならお婆ちゃんで、もう死んでいるんですが、子育てを夫に任せ、この道具を作った甲斐がありましたよ」

「いえね、魔王を倒して旅をしている時に変な占い師のお婆ちゃんと出会いまして、数百年先の勇者達がピンチになるからと道具を作る様に頼まれまして、ですが聞けば数百年先のスライムは私達が倒した魔王より強いと言うではありませんか」

「そんなスライムより強いゴリラとイカの魔物を倒す道具といわれましてもねぇ〜」

「そう簡単に出来るもんじゃありませんよ」

「でもまあ興味はありますし、錬金術師としてチャレンジもしてみたい」

「そう思い、私はその国で家を建て道具を作ってたんですよ」

「そんな中、街の男の人に猛アプローチを受け、結婚」

「愛を育み、子供を産み、道具を作る事数十年、遂に完成させたんですよ」

「あっ、初めましてカルサ・ナントレイです」


物凄い会話に圧倒されるルタ。

この人、凄くお喋りだ。

そう思いながらも、彼女に助けを求めた。


「大丈夫ですよ、ちょっと時間を止めてあるだけです」


そう言ってカルサはルリとルタを底無し沼から引き抜くと錬金術の道具を使い、底無し沼の泥を固めていく。


「さて、あなたにも多少の魔力はありますね」


そう言うとカルサはルタの人差し指に指輪をはめた。


「この指輪は少量の魔力を膨大に増やし、ビームを放つ代物です」

「相手に向けて放てと念じながら口にするとビームが出ます」

「ですが反動でしばらく動けなくなりますからご注意下さい」


説明が終わり、再び時間が動き出す。

ルタは言われた通り念じながら「放て」と口にした。

するとルタの人差し指から、どでかい光線が放たれて、ゴリッキーの体はビームによって焼き消されてしまう。

体という支えを失った頭と腕はボトリと落ち、残された両足は沼に刺さったままピクピクと動いていた。

それと同時にルリとルタは元の場所へ戻り、カルサはシルクハットを脱ぎ胸に当てた。


「さてと、此処での私の役目は終わりですかね」


カルサは体が薄くなっていくのを感じ、お辞儀をしながらゆっくりと消えて行った。


第54話 完

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