第53話[石]
タッティーナが海で溺れている頃、ルリとルタは底無し沼に嵌っていた。
ゆっくりと体が沼に沈む中、ルリはチョコを召喚し、ルタを乗せ、底無し沼から何とか抜け出した。
見渡す限りのジャングル。
つい先程まで、街に居たのに何故?
思考を巡らせている中、ジャングルから石が投げられて来て、それがチョコに命中する。
上空から落下するルリとルタ、このまま落ちてしまえば底無し沼にまた嵌ってしまう。
その事を理解しているのか、チョコは痛みに耐え、羽を羽ばたかせ上空へ戻っていく。
このままではヤバイ、そう思ったルリはチョコの周りをバリアで固め、チョコは石が飛んで来た方向へ火を吐いた。
だが、吐いた炎とは反対の所から再び石が飛んでくる。
(くっ、バリアが破られた)
ルリは再びバリアを貼るが、今度は先程より強めに投げて来たのか、あっさりとバリアは破られて、石がチョコに当たってしまう。
「チョコ大丈夫」
チョコに回復魔法をかけながら、ルリは考える。
このまま、此処ら一体を焼いてしまおうか。
相手は素早く移動しているんだもの、そうするしか方法は……。
そんな事を考えていると、ジャングルから野生動物の姿が上空から見えてしまう。
このジャングルを焼いてしまえば、あの動物達はどうなるの?
考えなくても分かる。
火に焼かれ、苦しみながら死んでいくに違いない。
でも、このままじゃ私だけで無くルタまで危険に晒されちゃう。
そんなの絶対に駄目。
手が震える。
呼吸が荒くなり、必死に自分の行いを正当化し覚悟を決めるルリをルタは強く抱きしめた。
「駄目だよお姉ちゃん」
「そんな事しちゃ、絶対に駄目」
ルリが何をしようとしているのかを察して、ルタがルリを止める。
「でも、こうしないと私達が……」
「諦めないで、こんな時お兄ちゃんならそう言うと思うの」
タッティーナなら……。
フフフ、そうね。
あの子なら絶対にこんな選択はしないわ。
だって私の自慢の弟だもの。
だったら私もあの子の……、ううん、タッティーナとルタの自慢の姉でありたい。
ルリは更に妖精の姉妹を召喚させる。
「ヤッホー、ルリちゃん……、って何よ此処」
シャシャが辺りを見渡し、そう呟く。
「他の召喚獣も居るし……」
ショショはチョコを睨みながら呟いた。
そんな中、シュシュは溜め息を吐く。
「これまでで、他の召喚獣が居る中で私達が呼び出された事ある?」
「私達は三姉妹で一体分の召喚獣扱いになる」
「そしてルリちゃんは召喚獣を一体しか呼べない」
何故ならそれ以上召喚しちゃったら、ルリちゃんに多大な負荷がかかってしまうから。
「それなのに私達を呼んだって事は、かなりヤバイ状況なの、分かるわよね?」
つかこれ位、考えれば直ぐに分かるでしょうに……。
この馬鹿二人と来たら……。
頭を抱えるシュシュを他所に、チョコにちょっかいをかける二人。
そんな中、ルタが叫ぶ。
「お姉ちゃん、大丈夫」
召喚獣二体分の魔力消費に加え、召喚獣を維持する為にも魔力がかかる。
その為、ルリの体に疲労感が溜まり、疲れが表面に出て来ていた。
そんな中、投げられて来る石。
それを見てシュシュはバリアを貼り、現状を理解した。
「お姉ちゃん、ショショ、ジャングルで石を投げて居る奴をお願い」
「私は此処でバリアを貼り、防いでいるわ」
「ええ、了解」
「私達のルリちゃんによくもこんな事を……」
シャシャは怒りを露わにする。
「許せないよね」
「秒で終わらせてあげなくちゃ」
ショショはそう言うと目にも止まらない速さでジャングルに突っ込んで行った。
「あはっ、いた」
ゴリッキーの姿を確認したショショは声を出して、姉のシャシャに居場所を伝える。
それを聞いていたゴリッキーは直ぐ様その場から離れた。
「あの馬鹿、気付かれちゃったじゃない」
「まあ、ショショなら簡単に追いつけるから別に良いけど……」
そんな事を考えながら、シャシャはショショの所へ飛んで行く。
「あはっ、鬼ごっこ?」
「負けないんだから」
三姉妹の中で一番飛ぶのが速いショショ。
どんなに相手に地の利があっても、彼女の前では無意味。
ショショは簡単にゴリッキーに追いつくと、そのまま左目めがけ、タックルした。
激痛に木から落ち、ゴリッキーは咄嗟に木の蔓を掴んだ。
その間にショショはゴリッキーを食べようと噛みつくが、ゴリッキーの皮膚は硬く、とてもじゃ無いが食べられない。
そんな時にシャシャが現れた。
彼女の顎は強靭で、瞬く間にゴリッキーの腕を食い千切り、ゴリッキーは底無し沼へと沈んでいく。
「うげっ、超不味い」
そう言って口の中の血を吐き出してシャシャとショショはルリの所へ戻って行った。
第53話 完




