第45話[野良餓鬼]
「この餓鬼、何言ってやがんだ」
そう言われ、俺はタイシ君の父親に胸倉を掴まれる。
「誰が救ってくれって頼んだよ」
「俺達はな、そんな事望んじゃいねぇ」
そう怒鳴られ殴られた。
俺はタイシ君の父親を睨み、殴り返す。
「何言ってんだよ」
「この村の子達も望んでいないって言うのかよ」
ふざけんじゃねぇ。
怒りが沸々と沸いてくる。
この村の大人は本当にこんな奴しか居ねえのか。
「野良餓鬼の事なんて知るかよ」
「それとも野良じゃない餓鬼の事を言ってんのか?」
「だったら残念だったな、奴らは救われるより親を殺す隙を狙っている」
「俺がそうだったからな」
老いれば老いる程、人は弱くなって行く。
逆に子供は歳を取れば取る程、成長し強くなっていく。
普段からダラけている大人達に対し、子供達は食料調達や水の確保、それらを運んだりして筋力をつけている。
二十代ともなれば逆転するだろう。
「俺も二十の時に両親を殺した」
「それまで誰かに救って欲しい何て思わなかったぜ」
悪びれる事無く笑うタイシ君の父親に俺は嫌悪感を抱く。
それでも……。
「分かったら、とっととこの村から出ていきやがれ」
「救ってやる」
「あっ?」
「何が何でもこの村を救ってやるさ」
「望んでない?」
「上等だよ」
「独りよがりでも偽善でも何だっていい、俺が……、俺達がこの村をハッピーで笑顔の絶えない村にしてやる」
「コイツ……」
振り上げられる拳。
来いよ、返り討ちにしてやる。
そう思った時だった。
タイシ君が父親の体にしがみつき、動きを止めた。
「お父さん、もう止めてよ」
涙を流しながら叫ぶタイシ君。
その体は震えていた。
「親に逆らうのか?」
「ひっ……、うん……」
一度は怯んだものの、タイシ君は頷き父親の問いに答えた。
「ああ、そうかよ」
「親に逆らう子共は息子じゃねー」
「今日からお前は野良だ」
「分かったら二度とこの村に帰って来るんじゃねぇぞ」
そう言い残すとタイシ君の父親はタイシ君を突き飛ばすと、この場から去って行った。
あれ?
これって……。
「お父さん……」
捨てられた事が悲しいのか、涙を流すタイシ君の背中を摩ってあげる。
もしかして、タイシ君のお父さんって以外と良い人なのかも?
薬を売りお金を稼ぎ、食料や飲水を確実に確保できるタイシ君を簡単に手放すだろうか?
ただ、弱っている子達に食べ物を分けているタイシ君を怒鳴り、殴りつけているからな。
やっぱり悪い人なのかも……。
くっ、分からない。
分からないけど……。
「きっと、タイシ君のお父さんは君に自由に生きて欲しくて、あんな事を言ったんだよ」
「タイシ君のお父さんは、君の事を愛しているんだ」
「お父さんが……、僕を……」
良い人であると信じたい。
そうすればきっと、タイシ君は救われる筈だから……。
第45話 完




