第41話[ラビット]
何かルリ姉が居ないと性格が急変しているんだが?
ついさっきまで天使だったのに今じゃ悪魔だぜ。
まあ、話しかけるなって言ってんだから、此処は何も聞かず料理を作り続けるか。
俺は気が利く男だからな。
決してルタの暴言が怖くて話しかけられないとかじゃないからな。
一人、そんな事を考えながら料理を作っていると……。
「あれ?」
「何か暗いな」
不意に暗くなり、顔を上げてみる。
するとそこには、三メートルはあるであろう、兎の魔物が立って居た。
二足歩行でムキムキの腕、ライオンの様な白い立髪に、体と似合っていない兎の可愛らしい耳。
「ンピョ」などと気持ち悪い鳴き声を上げ、つぶらな瞳で俺達を見つめていた。
「あはは、兎さんも食べます?」
「ンピョ、ンピョ」
兎の魔物はそう言うと、ドデカイ棍棒で料理の入った鍋を俺の前でぶち壊しやがった。
「あはは、駄目ですよ兎さん」
「食べ物を粗末にしちゃ、魔王さんに怒られちゃいますよ」
などと言いながら、俺はその場から逃げ出した。
当然、ルタも付いて来るものだと思っていたが、ルタは目を瞑り、その場から微動だにしなかった。
(ヤバい、恐怖で動けないのか?)
兎の魔物は棍棒を振り上げている。
俺は慌ててルタを抱き上げると、その場から急いで逃げ出した。
良かった、鳥肌が立たない。
ホムンクルスだからなのか、はたまた妹としてルタを見ているからなのか。
今はそんな事より、ルタを抱き上げながら走れる事に俺は心から喜んでいた。
「馬鹿、何で助けるんだよ」
ルタがそう言って俺を怒鳴る。
「そりゃ助けるだろ、家族何だから」
俺の言葉が癇に障ったのかルタは暴れ出し俺の腕から落ちてしまう。
そんなルタに手を差し出すが、ルタは俺の手を振り払った。
「何怒っているのか知らないけど、今はそんな場合じゃないだろ」
「早く逃げないと食われちまうぞ」
「良いんだよそれで」
はっ?
何言ってんだよ。
「私が食われている間に逃げてよ」
「それがホムンクルスの役割だろ」
本当に何言ってんだよ。
俺は再びルタを抱きかかえ走り出した。
「役割って何だよ、そんな寂しい事言うんじゃないよ」
「だってそうだろ、私は魔法で簡単に生み出された存在だ」
「お姉様だって、私が死ねばまた新しいホムンクルスを……」
「ルリ姉を馬鹿にすんじゃねぇ」
「ルリ姉はそんな薄情な人間じゃない」
「お前だって分かってんだろ」
「分かってるからルリ姉にその事を話さないんだろ」
「それは……」
こんな事、ルリ姉に話せば泣いてしまう。
ルリ姉はルタの事を本当の妹だと思っている。
それはルタだって分かっている筈だ。
「くっ、でもやっぱり不安何だよ」
「私だけ、二人と血が繋がってないから……」
「そんな私が妹を名乗って良いのか、それが不安何だよ」
「言いに決まってんだろ」
「俺は血が繋がって無くても本当の家族を知っている」
サナとサナのお爺さん。
あの二人は誰が見ても本当の家族だ。
ルタが血の繋がりを気にしていると言うのなら、俺はサナのお爺さんの様にルタに愛情を持って接して上げる。
だから……。
「だから、そんな寂しい事を言うなよ」
「お兄ちゃん……」
俺の目の前に兎の魔物が飛んで現れた。
兎だけあって跳躍力が凄い。
「ンピョン」
相変わらず気持ち悪い鳴き声だぜ。
それに何処か狩りを楽しんでいるみたいだ。
くそっ、舐めやがって。
調子に乗った事を後悔させてやる。
俺はそう思い、深呼吸をして叫んだ。
「セッちゃん助けてー」
「ルリ姉、可愛い弟と妹がピンチだよー」
「ンピョンピョンピョ」
俺の行動が面白いのか、兎の魔物はお腹を抱えて笑っていた。
そんな時だった。
兎の魔物のお腹から一本の手が生えてきた。
握られた拳に兎の血液が付着している。
余りにグロいから、俺はルタの目を塞いだ。
「タッくんとルタちゃんをイジメる何て、セッちゃん許さないよー」
流石セッちゃん、頼りになる。
「私の可愛い弟と妹をイジメる何て許さない」
茂みから現れたルリ姉が魔法で兎を焼いていく。
もがき苦しむ兎を他所に、二人は俺達の所へ駆け寄ってくれた。
そしてルリ姉は俺とルタを抱きしめて、俺達の無事を涙を流して喜んでくれた。
「フフフ、タッくん達兄妹は本当に仲が良いね」
「何だかセッちゃんも兄妹が欲しくなってきたよ」
一方サナは、材料を集め終えてテントに帰っていた。
「何が起きたんですか……」
無惨に潰れた鍋を見つめ、一人そう呟いていた。
第41話 完




