第39話[人類初]
色んな事がありゴタゴタしたけれど、無事にルリ姉は大賢者検定を受ける事が出来た。
後は吉報を待つだけだ。
「ねえ、タッくん」
「何、セッちゃん」
「その……、色々とありがとう」
「別に何もしてないさ」
セツコとそんな話しをしていると、試験を終えたルリ姉がやって来た。
ここで普通は「試験どうだった」と尋ねるべき何だろうけど、俺達はルリ姉の隣に居る少女から視線を外せないでいた。
「ルリ姉ちゃん、まさか誘拐でもしてきたの?」
流石はセツコ、聞きにくい事も平気で聞いていくその度胸、本当に恐れ入る。
「それがね、できちゃったの」
「魔法でホムンクルスを作る事ができちゃったのよ」
歓喜するルリ姉に対し、サナの表情は酷いものだった。
まるで人の成功を嫉み、その人の不幸を望む様な顔。
「冗談は止めて下さいよ」
「ホムンクルス何て錬金術師の誰も作った事何てありませんよ」
人は母のお腹の中で誕生し育つ。
やがてお腹から出た子は父と出会い、両親の手によって育ち、やがて人は母又は父となり、お爺ちゃんお婆ちゃんとなり、やがて死を迎える。
「これぞ正に命の奇跡」
「愛を持って人は成長していき、今度は愛の力で人を育てるのです」
「落ち着けサナ、結局お前は何が言いたいんだ」
「私が何を言いたいか、それはですね……」
唐突に涙を流し、サナは膝から崩れ落ちていった。
「悔しいんです」
「錬金術師の誰もが成し得なかった事を魔法使いが成し遂げて本当に悔しい」
サナ……。
「という訳で……」
「ハァハァ、お嬢ちゃん路地裏でサナお姉さんに色々見せてくれませんかねぇ」
「憲兵さん、不審者が居ます」
「なっ、タッくんさん」
全く、情緒不安定かよ。
「それでルリ姉、どういった経緯でホムンクルスを?」
「それがね……」
筆記試験を終えたルリ姉は実技試験の会場へ向かい、自分の番が来るまで前の受験者の魔法実技を見学していた。
青い炎や赤い炎それらを使い強そうな魔獣を描いたり、氷魔法で美しいアート作品を作ったり、ゴミを撒き散らして魔法で旋風を起こし、ゴミの木を作る者まで居た。
(なるほど、大賢者の実技試験では魔法の強さでは無く、アート作品を作り、魔法の腕を試験官に見せているのね)
どれも凄い魔法だった。
短時間であれだけのアート作品を生み出す事が出来るんだもの、本当に凄い。
なら私はどうするか?
私は必死になって考えて、そして……。
「あの子が出来たの」
サナがホムンクルスに夢中でルリ姉の話しを聞いていなくて本当に良かった。
聞いていたら多分、発狂もんだな。
第39話 完




